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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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バカな食べもの

ミスター世界(関根 正和)

世界には、バカな食べものがいくつかある。

まずは、vaca。

スペイン語で「牛」のことで、スペイン語ではVは「ヴ」ではなく「ブ」と発音するから、まさにそのものずばり、「バカ」である。

「肉」のことはカルネ(carne)で、牛肉のことはcarne de vacaというのだが、ただcarneといえば、通常、牛肉のことを意味する。

ついでながら、中国語ではただ「肉」といえば豚肉のことだから、それぞれの国ではどちらの肉がより一般的か、ということがわかる。

さて、関東人が「バカ」といえば、関西人は「アホ」と答える。

スペインには、「アホ」な食べものもちゃんとある。

ajoはガーリックのことで、Sopa de ajoといえば、スペインではとてもポピュラーな、ガーリックスープだ。

ajoblancoは冷やしたガーリックスープで、白ガスパチョともいわれる、スペインはアンダルシアの珍味だ。

しかし、なんといってもいちばんバカなやつは、「バカヤロー」だろう。

これはポルトガルにある。

ポルトガルのレストランに行って、注文をとりにきたウェイターに「バカヤーロ!」といえば、彼は何の苦もなく理解してくれるだろう。

bacalhau、ポルトガル料理はこれを抜かしては考えられないという、塩漬けタラのことだ。

正確には、「バカヤーオ」に近く、ヤと書いたがヤとリャの中間のような音だ。つまり、「バカヤロー」というよりは「バカヤーロ」に近い。

ポルトガルのバカヤーロは、ほとんど必ずといっていいほどそのままでは食べず、塩漬けにして乾燥させ、食べるときに塩抜きしてから調理して食べる。
 
14世紀、世界を凌駕したポルトガルの大航海時代に、船員の保存食料として重宝したものが、いまだポピュラーな料理になっているのだ。

ポルトガルにいくと、これをさまざまに料理したものが楽しみのひとつである。

ニンニクとトマトのソースで和えたりグラタンにしたり、タマネギ、ジャガイモの細切りとともに卵トジにしたもの、クリーム煮などなど。

いずれも、オリーブオイルをたっぷり使う。スペインやイタリアとはちがう、ポルトガル独特の香りのオリーブオイルだ。

僕は、戻したバカヤーロをただ蒸して、ポルトガルのオリーブオイルをたらしたものがいちばん好きだ。じゃがいもの茹でたのが添えられていれば、最高!

ポルトガルは何回か行ったのだが、ポルトガルの景色や町並みを思うとき、バカヤーロとオリーブオイルの香りがたちまち記憶によみがえる。

ところで、フランスではエイプリル・フールのことをPoisson d'Avril、つまり「四月の魚」という。このころに捕まる魚はバカだということが理由らしいが(定かではない)、やはりタラもバカヤローなのであろうか??


(2009年7月16日号掲載)



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