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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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コングクスはやめときなさい

ミスター世界(関根 正和)

このあいだ、韓国レストランに行って、あるものを注文した。
 
そしたらウェイトレスが、「この料理は、以前に食べたことがあるのか?」と
聞く。

「ないです」と答えると、
「それならやめておきなさい。コリアンピープルはみな好きだけど、外国人は好きじゃないから」。

注文したものを店員に「やめろ」といわれることは、そうあることではない。

この料理がコングクスである。

韓国の夏の風物詩、コングクス、豆乳ラーメンだ。

じつは、僕は大豆から作ったコングクスは何度も食べたことがあるのだが、この店は、チョムオン・コングクスといって、黒豆から作った豆乳ラーメンで、それは初めてだった。

ウェイトレスの忠告にひるむことなく、これを注文する。

キンキンに冷やされてでてくる。

冷麺(ネンミョン)も冷たいが、あれはどちらかというと熱い焼肉を食べながらバランスをとるための冷たさだ。こちらは夏の暑い日のためのもの。

日本のソバ屋さんなら「冷やしソーメン始めました」と食堂の壁に貼ってあったりするが、韓国では「コングクス・ケーシ」(ケーシ=開始)とハングルで書いた紙が貼られる。

さて、僕のテーブルに登場した黒豆コングクスのスープは、黒豆を茹でて皮を剥いてから絞ったもので、薄いグレーが美しい。

さあ、食べてみよう。

一口すする。

マズイ!

塩ケがまったくない。

そうそう、この料理には、自分で好きな分量の塩を入れて食べる、という決まりがあったんだっけ。

適当に塩を入れて食べると、黒豆乳のさわやかな香りと舌触りが、とても心地よい。

麺はラーメン風の黄色い親しみやすい麺で、舌触りとノド越しがいい。

ところが、そのあとにもうひとつの難関が待ちうけている。

(フツーの外国人は)食べてるうちにだんだん飽きてくるのだ。

グというものが、ほとんど入っていない。キューリをタンザクに切ったものと、トマトが一切れだけだ。

焼豚やシナチクなどは入ってない。

じつは、この料理の食べ方には、もうひとつ秘訣がある。

それはキムチとかわりばんこに食べること。

韓国料理は必ずキムチがでてくることはいうまでもないが、コングクスほどキムチによくあう料理は僕は知らない。

チーズとワインのように、紅茶とビスケットのように、この料理とキムチがすばらしい相性をみせる。

豆乳の脂っけのない清涼感と単調な麺の舌触りが、パンチのあるニンニクと唐辛子味とバリバリとしたキムチと、じつに妙なるバランスを作り上げるのだ。

たしかに、フツーの外国人が、塩を入れずに、キムチなしで、寒い日にこれを食べたら、「おいしくない!」ということになるでしょうね。

当然、僕はおおいにエンジョイして、ウェイトレスをおどろかせたのでありました。


(2009年9月1日号掲載)