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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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ヘンなフランス語

ミスター世界(関根 正和)

前回は、アメリカにおけるヘンなイタリアンのはなしだったので、今回はヘンなフレンチについて書こう。

と思ったら、これがあんまりない。
 
イタリアのほうは古くから移民がとても多く、かれらの食文化が長いあいだにアメリカナイズしていったのだろうが、フランス系にはそういう歴史がないようだ。

しいていえば、エスカルゴ(かたつむり)。フランス料理の代名詞のように言われているのに、フランスに行けばちっとも一般的じゃない、ってなことはあるが、存在しないわけではない。
 
しかし、ヘンなフランス語、というのがあります。
 
「Entrée(アントレ)」。このフランス語の意味は、entry つまり「入り口」で、アペタイザーのこと。
これがなぜかアメリカではメインコースのことになっているのだ。
ではフランス語ではメインコースのことをなんと言うのでしょう?
なんとも言いません。
 
メニューにはふつう、メインコースというセクションがなく、「Volailles(禽鳥類)」「Viandes(肉)」「Poissons(魚)」「Legumes(野菜)」というようにわかれているのである。「Plat principal」と言えなくもないが、一般的ではない。

ところでこの「Poisson(魚)」というのは、まるで「Poison(毒)」みたいでしょ?
フランスではじめてメニューを見るアメリカ人や日本人がみんなおどろく。
ちなみに「毒魚」はなんて言うかというと、「Poisson empoisonnée」である。

それはどうでもいいとして、フランスはやはり「食」については世界最高というイメージが定着しているから、アメリカのレストランでフランス語をそのまま使っているケースは多い。

「Buffet」もそうだ。
これは、もともとは食卓のそばにおいてあるサイドボードを意味していることばだが、そこに料理を並べて各自がとって食べたところから、あの食事スタイルの呼び名となった。
ただし発音はフランスでは「ビュフェー」。
日本語の「ビュッフェ」も英語の「バフェー」もちょっとちがうが、まあいいでしょう。

あんまりよくないのは、車をレストランの前までのりつけたときに係の人が駐車してくれるやつ。
さあみなさん、あれはなんと言うのでしょうね。
そう。「Valet Parking」です。
でも、それを「バレット・パーキング」と発音してませんか。
「Valet」はフランス語でも英語でも「バレー」です。
そんなこと言ったってtがあるじゃない、という人、踊りの「ballet」はバレットと言わないでしょ?
Buffet もそうだし、「Filet(フィレー)」つまりヒレ肉、「Lait(レー)」つまりカフェオレのレ、すなわちミルクもそうで、フランス語の単語の語尾のtは原則としてサイレントだ。
アイスクリーム・パフェのパフェ(Parfait)は、英語で言えばperfect、
つまりアイスクリームにいろんなものをのせて「完全」にした、という意味だ。
 
さて、はなしを急ごう。アメリカのレストランで使われるフランス語。
「Prix Fixe」はコースになっている食事。Fixed Price という意味だ。
レストランに入ったとき、入り口からテーブルに案内してくれる人のことは、
なんと言うか知ってますか?
 
「Maitre d'Hotel( ホテルの主人)」を略して「Maitre D(メイトルディー)」と言う。
むかしはホテルと食堂が一緒になっているばあいが多かったのだろう。
chef もそうだし、hors d'oeuvre(発音はオードブルじゃなくオドゥーヴル)もそうだ。
いや、考えてみればrestaurantがそもそもフランス語だ。
これはrestore に関連することばで、体を元気に回復させる、という意味なのだ。
 
さあみなさん、レストランに行って元気になりましょう。

(2006年5月16日号掲載)