食べる
Food

ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
ミスター世界

ほんもののカプチーノ?

ミスター世界(関根 正和)

コーヒーに、しっかりあわ立てたミルクをたっぷり入れた、
カプチーノ。
イタリア旅行の楽しみのひとつといってもいい飲みもので、そのなまえの由来をご存じのかたも多いだろう。そう、カプチン派の修道僧からきている。

カプチン派とは、16世紀にフランチェスコ会から分かれたカトリックの一派で、「cappuccio(イタリア語で頭巾)」をかぶる習慣からこう呼ばれる。そのかれらのまとっているケープの色が、ちょうどミルク入りのコーヒーの色に似ているので、カプチーノ(カプチン風)という名をつけられたのだ。

アメリカでは、いまでこそスターバックスなどのコーヒー屋をはじめ、ちょっと気のきいたレストランならエスプレッソやカプチーノが飲めるが、僕がアメリカに移住したばかりのころ、つまりいまから30年ほどまえはそうではなかった。

いや、正確に言えば、カプチーノはそのころでも飲めた。
しかし、これがヘンなカプチーノなのである。
そもそも、当時のLAにはロクなレストランがほとんどなかった。
日本料理といえば、アメリカ人にはテンプラとテリヤキのコンビネーションくらいしか
思い浮かばなかったような時代である。
イタリアンとかフレンチレストランと称する店も、
いいかげんにイメージだけで料理したような店だった。
その圧巻と言えるべきものがカプチーノである。

アメリカンコーヒーにふつうのミルクと砂糖、そしてなにかの酒(リキュール)を入れたもの。
ちょっときどったレストランで「カプチーノ・プリーズ」と言うと、これがでてきたものである。
それがいつのまにか、ちょっとしたレストランならちゃんとエスプレッソマシーンで作った
ほんものをだしてくれるようになった。
イタリア料理の食後とかに飲む人がふえた。
でも、ちょっと待って。

そこがおかしいのです。
カプチーノは昼間の飲みものなのである。
朝、出勤途中にバルに立ち寄って、カフェラッテやカプチーノを立ち飲みする。
あるいは午後の休憩に、カフェの路上のテーブルで飲む
(ちなみにカフェラッテとカプチーノのちがいは、前者のほうはあわ立てないか、
または少しだけあわ立てたミルクを入れ、後者はたっぷりとあわ立てたミルクを入れる)。

イタリア人がランチやディナーをレストランで食べるときは、
ご存じのように必ずパスタとメインコースを食べる。
そういう満腹状態のあとに、さらにあわ立てミルクたっぷりのカプチーノという、
お腹をふくらませるものを飲むというのは、理にかなわないのである。
そこで、ふつうはエスプレッソ(イタリア人はただカフェとよぶ)、
または、マッキャート(エスプレッソにミルクを1滴だけたらしたもの)を飲む。
 
食後にカプチーノを飲むイタリア人は、まず皆無と言っていいだろう。
僕のイタリア人の友人によると、あれは朝11時までの飲みものさ、と断言した。
それが好きならば、いつ飲もうと、悪いとは決して言わない。
ただ、それがイタリアの習慣だからと、かっこいいと思って、飲むことはないのです。

(2005年3月1日号掲載)