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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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パリに行ったらメニューを食べましょう

ミスター世界(関根 正和)

いま、パリに来ている。
毎年少なくとも一度は来るのだが、何度来てもこころをうたれるのは、その街並みだ。
それは、ほかの街のように、「美しい街並みがある」、などというなまやさしいものではなく、表通りも裏通りも、右を見ても左を見ても、ひとつ残らずの建物が、パリそのものが、美しいのである。

そしていうまでもなく、嗚呼、フランス料理。
素朴なものから伝統的な料理、芸術性あふれた創造的な品々、それにエスニックフードもふくめて、どれもが感動の世界である。

そんなフランスのハイクラスな食事のスタイルに、Menu Degustation、
メニューデギュスタシオンというものがある(以下Menuという)。
日本の懐石料理と同じように、ちいさなポーションが皿に絵のように美しく盛り付けられ、
いくつもの料理がコースとなって登場する。
フランス人のシェフたちが日本を訪れるようになって発見し、持ち帰ったスタイルである。

それは、季節の食材をたくみに使い、冷たい料理と温かい料理のたくみなかけひきや、
芸術性と創造力にあふれている。
客は、次にくる未知の料理への期待や、その料理がテーブルという舞台に登場したときの感動、
口に入れたときの興奮、そして粋な遊びのこころなどをあじわうことになる。
懐石料理に親しんでいる日本人ならよくわかる世界である。

Menuは、テーブルのみんなが感動を共感するために、全員が注文しなくてはならない。
もちろん、Menuと懐石の違う点もいくつかある。

懐石はまず、ちょっと先取りした「季節」というものが「テーマ」としてコースを流れる。
Menuの場合は、旬の食材はうまく使うが、季節感はよりゆるやかである。
懐石は、さしみ、煮物、焼き物、といった料理方法によるコースの順番が決まっていて、
そのなかでいかに独創的なものを打ち出すか、というものだが、
Menuにはそういうルールはなく、あるのはシーフードから肉、
軽い味つけのものからしっかりしたソースの料理へ、といった流れである。

つまり、懐石は、季節と、決まったルールのなかでの内面的ひろがり、
まさに俳句の世界なのである。
Menuは、ルールという殻から外へ広がる芸術である。
さらに、日本酒をずっと飲み続ける懐石とちがって、料理にあわせてワインを変えていく。

じつは、もうひとつ大きい違いがある。
僕にはだいじなポイントである。
デザートなんです。

懐石では、季節の果物、メロンとかぶどう、といったものだけだが、
Menuでは、チーズのあとに、ラストスパートのように、いくつものデザートが登場する。
たとえば三種類の自家製アイスクリーム、次に果物のワイン煮、
それからチョコレートベースのデザート、
そして最後にプティフール(フィンガーサイズのクッキーやガトー)、といったように続く。
もちろんワインは甘く夢をみるようなデザートワインである。

至福の世界、とはまさにこのことである。
みなさんもパリに行ったらぜひMenuを食べてくださいね。
(*フランス語でメニューとは、お品書きではなく、コース料理のことをいう)

(2005年7月16号掲載)