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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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驚きの天津肉マン

ミスター世界(関根 正和)

前号に続いてチャイニーズになっちゃったが、今夏の中国旅行で発見したいろいろな食べものについて、書きたいことがいっぱいあるのだ。そのひとつが、天津の肉マンである。

内陸にある北京から、列車にのって南東つまり海のほうへ一時間ちょっと、天津は北京にいちばん近い港町で、大都会である。感覚的には東京からみた横浜だ。

この街に、狗不理(ゴープリ)というレストランがある。
ここに行きたくて天津まで出かけていった。
この店の肉マン(包子)こそが、中国人なら知らない人はいない、というほど有名なのである。

前置きは省こう。その肉マンの味はどうか?
ガブッとかぶりついて、まず驚いたのは、中からスープがほとばしったことだ。
上海の有名店、南翔饅頭店の小籠包をはじめて食べたときと同じ驚きだ。
小籠包も、一口噛んだときに口の中にほとばしるスープこそがその身上だ。
小籠包がうまい店はLAにもいくつかあり、僕もそれについてはなんどか書いた。

だが、肉マンも同じだ! というのには不勉強にして、はじめて知ったのである。

天津は今回がはじめてだ。
香港なら10数回行ったが、香港では肉マンにお目にかかったことがない。
アンマンはある。それと、甘く味付けした焼豚なんかを入れた饅頭はある。
ところがこの天津の肉マンは、まさに日本の肉マンとおなじ、肉団子入り。
そうか、ここが元祖だったんだ。
いわゆる肉マン、猪肉包子(ブタ肉団子入り)だけではなく、韮菜包子(ニラと肉入り)、素菜包子(野菜だけ)、三鮮包子(肉と蟹肉、乾燥帆立貝)などの種類があり、まわりの客は2、3種類をとって食べている。
僕もそうした。
 
なかでは三鮮がいちばんうまい。
スープだけではない。
なんというのであろう、あの餡を包んでいる外側の白い包み、あれがうっすら小麦色で、
小麦の香りがして、完全漂白した作りものとはちょっとちがう。
その歯ごたえがすばらしく、フワッとしているのに弾力がある。
うまくない肉マンだとこの部分がネチョッとしていて、
中の肉は食べたいけどこれはできれば残したい、というようなものがあるが、
この狗不理のものは包みからして楽しい。

考えて見れば、パンを焼いてもその原料と作り方で雲泥の差がでるのだから、
包子を蒸してもおなじことなのだろう。
もちろん、醤油などつけない。餡と包みの味のバランスがいいから、
つけるとすれば辣椒醤(ラー油)だけだ。

もうひとつ興味をもったのは、『狗不理包子』の看板が天津のいたるところにでていたことだ。
小さな薄汚い店や屋台も含めて、そこらじゅうにある。
つまり、ほんものの狗不理があるお膝元で、ニセモノが堂々とその名を名乗って包子を売っているのだ。
まさにコピー文化華やかりし中国らしい光景ではあった。

しかし、『狗不理』って、へんな名前だね。どういう意味?
「狗」とは中国語で犬のこと。
ちなみに犬という文字は、「警察犬」などと複合して使うときには使うが、単独で犬を意味するときには決して使わない。
そして「不理」とは、かなわない、という意味だ。

むかし、天津に腕っぷしの強い子がいて、犬でさえ喧嘩をしてもかなわない、
ということで、狗不理というアダ名(中国語で外名)がついた。
この子が成長して肉マンを売る店を始め、狗不理という名をつけた。
これがうまいので大当たりして、中国中で有名になった、というわけである。

ところで、日本では、天津といえば思いつくのは甘栗だ。
じつは天津はお菓子やスナック類で有名な街で、その中のひとつが包子であり、また甘栗なのだ。

もひとつ有名な、天津ラーメン、つまりカニ玉を乗せたソバは、いくつか行ったレストランのメニューには
みあたらなかったし、現地の人にきいてもなんのことかわからなかった、ということもつけ加えておこう。

天津狗不理の包子 Photo by Masakazu Sekine

(2006年9月16日号掲載)