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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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四川料理の真髄に迫る

ミスター世界(関根 正和)

白状します。
僕は今まで中華料理について偉そうなことをいっぱい書いてきましたが、四川料理の本場、四川省には一度も行ったことがありませんでした…。
もちろん、LAの四川レストランはたくさん食べあるいたし、香港や北京では四川料理店にもいろいろ行ってみた。

しかしこの夏、ことしこそは! 
と思い立って四川省の中心の街、成都を訪れた。
成都は夏は暑く、冬は逆にとても寒いことで有名な街である。
しかも一年中曇っていて、太陽が顔を出すと犬が吠えるといわれている。
ことしの中国の夏は異常気象で特別に暑く、曇り空の湿度もおそろしいものがあった。
しかし、そういう暑さゆえますますうまい四川の料理、それをここにご報告させていただきたい。

四川料理は辛い、というのはだれでも知っている。
四川のひとたちは10人のうち9人が痔主だという。
だが、辛いだけではないのだ、というのが今回の結論である。
辛さの奥に潜むうまさ。
料理を口に入れると、舌を焼くような唐辛子の「辣」と、舌を痺れさせる山椒の「麻」、
この複合した辛さをやっと通り過ぎると、複雑で洗練された味の世界が待っている。
気候の変化が大きいということは、すなわち季節季節の食材が豊富で、
その素材を強火で急速に料理するから、新鮮な味や香りが生きているのだ。

辛さについても、発見があった。
四川人のガイドや運転手などと一緒に食事をしたのだが、
かれらは料理に入っている唐辛子そのものはちゃんと避けて食べている。
我々と舌の構造がちがうわけではないらしい。
「四川には唐辛子だけ炒めた料理もあるそうですけど」と聞いてみると、
「それはあることはあるが、うまいものではないから、あまり一般的ではない」、
という答えが返ってきた。

つまり、無意味に辛いものばかりを食べているわけではないのである。
それと、もうひとつ重大なことは、まああたりまえのことなのだが、
まったく辛くない料理もあるということだ。しかもそれがおそろしくうまい。

たとえばスープ。僕がある一軒で味わったキノコのスープは、まったく辛くなく、
生まれてこの方食べたスープの中で一番うまいと思った。
彼らの料理の注文のしかたをみていると、たとえば4人ならば辛い料理を3〜4種類とり、
辛くないスープと、さらにひとつはまったく辛くない料理をとって、バランスをとっている。
そして、辛いものは白いご飯の上にいちど乗せてから食べる。
辛いタレをご飯に吸わせて分散させているのだ。
日本人にはちょっと意外かもしれないが、香港や上海など、レストランでは、
料理だけ食べて白いご飯を食べないことがふつうだ。ところが四川では白いご飯は必須らしい。

それから、今回初めて食べたものに、四川の点心料理というものがある。
香港のヤムチャのようなもので、ランチに食べるのだが、小さい皿や器に入った一口サイズの料理が16種類ほどテーブルにならぶ。
龍抄手というワンタンや水餃子、川北涼粉というクズの麺、それに担々麺など、
超辛く舌先がビリビリするものから、
叶八というまさに日本のかしわ餅で中は肉団子という辛くなく超うまい一品、
あるいは竹笋海鮮湯というこれも辛くない竹の子とシーフードのスープ、
さらには玉米金という外見は正真正銘のコロッケだが中は甘いデザート、
などなど、どれもこれも興味深くてうまいものばかり。

それに四川料理といえば、麻婆豆腐、回鍋肉、蒜泥白肉などが有名なので食べてみたが、
いずれも辛さはもちろんしっかり、その奥にあるうまさが堪能できるものばかりであった。

そして、なによりも驚いたのは値段。
今回いろいろ食べた店はどこでもそうだったが、4〜5人であれもこれもと、
とっても食べきれない分量を注文して、ドルに換算して15ドルとかそういう世界であった。
中国の物価の安さというべきか、人民元のお得な価値というべきか、
いずれにしてもおおいに楽しませてもらったのである。

辛い料理と辛くないスープの組み合わせ Photo by Masakazu Sekine

(2006年10月16日号掲載)