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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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ライスのマナーに結論を

ミスター世界(関根 正和)

結婚式などのハレの席で、料理とともに白いライスがお皿に盛られて登場、テーブルにはナイフとフォーク、みなさんは、さあどうやって食べますか?
このテーマはむかーしから常に話題になってきたことで、
いろんなひとがいろんな意見をいったり書いたりしている。

日本の伝統的なテーブルマナーとされるものでは、
フォークの背にナイフでライスをぬりつけて食べろ、
といわれてきた。
それに対して、フォークを発明したひとも、
まさかその背にものを乗せて食べるひとびとが出現するとは思わなかったはずだ、
フォークを上向きにひっくり返して食べるものだ、というひともいる。

さあ、今日はこの論争に決着をつけてしまおう。
みなさんはどちらが正解だと思いますか。
どちらも正解ではないのです。
だってそうでしょう、ヨーロッパでは米をああやって炊いて食べる習慣はないわけで、
正しいマナーが決まっているわけはない。

しかし、似たような食べものはある。
たとえばグリーンピース。あんまり似てないなあといわれるかもしれないが、
ヨーロッパで料理の付け合せとしてよく登場するもののなかでは、近いもののひとつだ。
ヨーロッパ人を見ていると、かれらはフォークを上向きにひっくり返すようなことはまずしない。
聞いてみると、そんなの面倒だという。
最近はアメリカ人のようにずっと右手に持って食べてしまうひとも見かけるが、主流ではない。
ふつうグリーンピースは、左手のフォークに、
右手のナイフを利用してブツブツと刺し、さらにフォークの背中に盛り上げて食べる。
つまり、日本で伝統的にいわれてきたライスの食べ方に近い。
だが、これをライスでやってみると、グリーンピースよりも、
ライスはもっといちどに大量に食べるものだから、かなりまだるっこしい。
ひっくりかえして表に載せたところで、たいして大量に乗るわけではないし、たしかに面倒だ。

ここで、そもそもテーブルマナーとはなにか、ということを考えてみよう。
マナーというのは、ひとことでいえば、理にかなっているかどうか、ということである。
これは世界中どこでもそうで、マナーの粋ともいえる茶の湯でもしかり。
すべての所作、ものを置く位置が、伝統につちかわれた、理にかなった意味のあるものなのだ。
ヨーロッパの食事マナーも、動きが自然でムリがないか、食べやすいかどうか、
ひいては食べることに余分な神経を使わず料理を楽しむことができるかどうか、
ということがポイントなのである。
つまり他人が見て食べにくそうに見えるとか、食べものを落としそうであぶなっかしいとか、
まだるっこしい、あるいは音がウルサイ、というのがマナーに反するのである。
たとえば骨付きラムのばあい、もしナイフとフォークを使って骨から肉を切り分けようとすると、
食べるほうも見ているほうもまだるっこしい。
そこでこれについては手で掴んで食べるのがよいマナー、ということになっている。
つまり、ライスを食べるとしても、自然さ、食べやすさを第一とするのがマナーであるはずであり、
そうなると、いちばん食べやすいのはスプーンである。

そう、店はスプーンを用意すべきなのだ!
極端なはなし、スープのばあい、ナイフとフォークで食せ、とはいわないだろう。
ではなぜライスにスプーンを用意しないの?
これは、マナーというものを、
表面的な形式だけ見て精神を理解していないということだ、と僕は思う。
ライスがいちばん食べやすいのは、フォークを左手、右手にスプーンである。
スプーンでかなりの食物が切れるし、ステーキでもない限り、
ほとんどのばあい食事中はずっとこれで通すことができる。
まさにこれこそ、東南アジアの、フィリピンやタイなど米文化の国々で自然に発達した、
もっとも理にかなった食べ方なのである。

(2006年11月1日号掲載)


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