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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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ピーマンって、どんな男?

ミスター世界(関根 正和)

ピーマンという野菜がある。
日本人ならだれでも知ってるこの野菜、さて、英語でなんというか、普通の日本人はあまり知らないだろう。
もちろんアメリカ在住のあなたはご存じ、bell pepperですね。
それじゃ、「ピーマン」って、どこから来た名前? そもそも、どういうスペル? どうです、知らないでしょう?
peamanじゃ「豆男」みたいでヘンだし、pee manじゃちょっとキタナイし。

答えをいいましょう。これはフランス語です。
piment、発音はピマン、とマンのほうにアクセントがある。
ところが、フランスではこれは唐辛子のことを意味して、ピーマンのことはpoivronと呼ぶ。
つまり、フランス語の唐辛子とピーマンが日本に入って、どこかでごっちゃになったらしい。
まあ親戚のようなものだからしょうがないでしょう。

さて、名前の件はそれでいいと。
原産地は、というと、唐辛子とおなじくアメリカ大陸。
これはわかりやすい。
次に、ピーマンにはどんな種類があるのでしょう?
緑をはじめとして、赤や黄色、オレンジなど、
まるで絵の具を塗ったかのような美しい色のバラエティーがありますね。
緑色のピーマンは、熟していないから緑なのであって、熟せば赤くなり、
苦味や辛味がなくなり、甘みがでる。
それを、乾燥させて粉にしたのがパプリカである。
つまりピーマンとパプリカは同じものだったのだ。どうです、知らなかったでしょう。
 
もうひとつ、ピーマンとシシトウも同じものである。
もちろんシシトウは小振りの種類だが。
僕は、子供のころピーマンが大嫌いだった。
当時は緑の未熟ピーマンしかなくて、子供の舌にはおそろしく苦く感じられた。
大人は、なぜこんな苦くてまずいものを食べるのだろう、
なぜ、ビールなんていう苦くてまずい飲みものを、「ウメー」とかいって飲むのだろう?

ところが、ある日突然、ん? ピーマンって、うまいなあ。
あれ、ビールもうまい! と気がついたのである。
同じような経験をされた読者は多いと思うが、僕がピーマンがうまい、
と思ったのは、日本のどこかの中華料理屋で、
青椒肉絲(チンジャオロースー)を食べたときだったと思う。
沖縄のゴーヤーチャンプルーもそうだが、この苦さがいいのだ。
苦さと肉の香りの不思議なマッチング、いったん「うまい」と思ったら、
二度とその思いは変わることはない。

日本では中華料理の代表のひとつみたいなこの料理だが、もうひとつの代表、
エビのチリソース煮が日本発の料理で中国に行っても食べられないのに比べ、
この料理は中国でもポピュラーだ。
ただ、日本では牛肉を使うのに比べ、中国では牛肉より豚肉を使うことが多くて、
青椒肉絲と呼ばれる。肉のなかで豚肉がいちばんポピュラーな中国では、
ただ、肉といえば豚肉のことをさすのだ。牛肉を使う場合は青椒牛肉絲となる。

いっぽう、イタリアではアンティパスト(前菜)のもっともポピュラーなもののひとつで、
peperoni arrostiti、僕はこれに目がない。
イタリア、特に南のほうでは、
レストランに入ってすぐのところにさまざまなアンティパスティ
(パストが単数、パスティが複数、パスタではないですよ)
をずらっとバフェ状に並べてあることがよくある。
そのなかでも、さまざまな色のピーマンは、必ずといっていいほどおいてある。
火で焼いたあと、紙などで包んでしんなりとさせ、室温までさまして、
オリーブオイルをかけたものである。
これを見ると、僕は食べずにはいられない。
大概、茄子やたまねぎも同じように調理して並べてある。
それらをたっぷりとって、白ワインとともに食す。
大人になって(ピーマンが好きになって)、幸せです。

(2007年2月16日号掲載)


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