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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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謹賀新年

ミスター世界(関根 正和)

みなさんは今年もおせち料理を食べましたか?
ここはアメリカ。それなのに、ちゃんと日本のおせち料理が食べられる。カリフォルニアはすばらしいところだと思いませんか。

さて、そのおせちだが、漢字で書けば御節料理、つまり1年に5つある季節のかわりめを祝う、日本独特の伝統料理だ。
一家みんなでお祝いをする正月だから、このときだけは主婦も仕事はお休み。かまどの火も落として、作り置きしてあるおせち料理を楽しむ。つまり、三が日は傷まないような料理がおせちの原則となるのはご存じのとおりである。

そして当然、縁起のいいものが好まれる。
子孫繁栄、家内安全、五穀豊穣。
昆布は子産に語呂をあわせ、数の子で多産を願い、カマボコは赤白で幸せを祈る。
コハダを食べるのは、この魚が成長するとコノシロになる、いわゆる出世魚だからで、
伊達巻を食べるのは、巻物が大切な文書という家宝だったからで、
黒豆は「マメ」ということばが江戸時代には「丈夫、健康」という意味だったからだそうである(紀文情報館)。

それでは、外国には正月料理はあるのだろうか?
西洋は、どこでも正月は休日ではあるが、これを特別に祝う習慣はなく、
大晦日に大騒ぎするだけなのはご存じのとおり。
 
中国では、新年は旧暦、つまり太陰暦で祝うので、
1月1日は休日だが、特別に祝うことはない。
旧正月は、太陽暦でいえば年によってちがい、1月末か2月で、ことしは1月29日だ。
シンガポールやベトナムなど、東南アジアでも華僑が中心になって旧正月を祝うし、
韓国もおなじである。

だから、彼らは日本人も当然そうだろうと思っているわけで、
僕がある年の2月のある日、LAのいきつけのチャイニーズレストランに入っていったら、
店主が「Happy New Year!」と声をかけてきた。
もう元旦から1カ月以上たっているのに、ずいぶんノンビリした人だなあ、と思ったことがある。
よく考えたら、ちょうど旧正月だったわけだ。

中国語の「Happy New Year」は「恭喜発財(コンシーファーツァイ)」と言う。
子孫繁栄よりも家内安全よりも、なによりお金が儲かりますように! というわけで、
いかにも墓場までお金を持っていく中国人らしいが、さてここで話題は正月料理に戻る。

これも、彼らの発想は金儲けなのである。
代表的な正月料理が「発財」という名の料理だ。
「もずく」という、黒い色をした髪の毛のような海藻があるが、
あれを中国語で「髪菜」と書いて、ファーツァイと読む。
このファーツァイという発音が「発財」と同じなので、縁起がいいというわけで、
旧正月になると、中国のレストランや、LAのチャイニーズレストランには
必ずといっていいほどこれが登場する。

さらには「●(虫へんに豪)」、つまり牡蠣、この発音「ハオ」が「好」(良い)と同じ、
そして「○(豆へんに支)」、つまり黒豆の味噌、その発音「シー」が「市」と同じなので、
牡蠣ソースと黒味噌仕立てのもずく料理、「髪菜●○」を、
「発財好市」というえらく縁起のいい字に変えてメニューに記し、
これを食べて商売繁盛、お金ザクザクを願うということになる。

シンガポール、ここの正月には刺身のサラダに「撈起」(広東語で「ローヘイ」。
シンガポールには広東やその南、潮州からの移民が多い)という名をつけて食べる。
「撈起」とは漁師が網をたぐって魚を引きよせるしぐさで、
そうやってお金をたくさん引きよせよう、というわけだ。
家庭では、団子を食べて、一家が丸くなるように、と願う人たちもいる。
でも、いずれも文字やしぐさがポイントで、料理そのものには特別なものは少ない。

やはり、季節の風物詩として、正月だけに食べる日本のおせち料理、
この暖かいカリフォルニアにいても食べたいものである。

(2006年1月1日号掲載)


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