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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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過橋米線物語

ミスター世界(関根 正和)

過橋米線…。
なんのこと?

じつはこれ、故事からくる中華料理のなまえである。
中国の料理には、故事からくるなまえがついたものがいろいろある。

『故事』(グーシー)とは「物語り」という意味で、たとえば麻婆豆腐。
成都という街で、あばた(麻)の奥さん(婆)の作る豆腐料理がおいしくて
評判になり、中国中にひろまったというはなしは有名である。

あるいは、佛跳墻。
仏教の修行をしているお坊さんでさえも、この匂いを嗅いだら
いてもたってもいられなくなって垣根(墻)を跳び超えて食べにいく
とされるスープである。

乞食チキンのはなしをご存じの方もいるでしょう
(これについてはそのうち詳しく書きますね)。

過橋米線の故事は、ちょっと長くなるが、こうだ。

むかし雲南省で、ある人が、科挙の試験、つまり上級国家公務員の試験を受けるために
気が散らないように湖のなかにある島に庵をかまえて猛勉強をしていた。
その人の奥さんが、栄養がよくて勉強しながらでも食べやすいように
そして届けるあいだに冷めてしまわないようにと、いろいろ考えて産み出したのが、
チキンスープで米の麺を煮て鶏肉と野菜を入れ、熱い油を足したヌードルスープ。
これを毎日作って、その島へ橋を渡って届けたので、ご主人はみごとに試験に合格した。
彼が合格祝いに集まった友人たちに
「わたしが合格したのは妻の料理のおかげです」といったので
友人たちは「ぜひその料理を食べてみたい、やいのやいの」ということになった。
かくして奥さんがみんなにこのヌードルスープをふるまったところ
「これはすばらしい。いったいなんという名の料理ですか?」と聞き
奥さんが、とっさに「過橋米線です」と名づけ、その料理は中国中で有名になった、とさ。

過橋とは橋を超えること、米線とは米の麺である。
いま、雲南省の名物だ。
過橋米線のもっともベーシックなものは、クリアーなチキンスープに白い米の麺だから
一見したところ非常に淡白。
だが、チキンや野菜のうま味がスープにしっかり染み出していて
食べてみると、「あれっ?」とおもうほどいい味が出ているのが特徴だ。
いわば塩ラーメンの米線バージョンである。
米の麺だからベトナムのフォーにも似ているが
地図を見てみると雲南省の南はすぐベトナムなので、そこはつながりがあるのだろう。
でもフォーより麺が太い。

いっぽう、北どなりは四川省で、そのつながりで、他の料理には味が濃く、辛いものも多い。
すなわち、濃い味の料理と、比較的淡白なこのスープヌードル過橋米線
これでバランスをとるのである。
白いご飯を食べるかわりにこれを食べるのだ。
土鍋で煮込んだものもあり、なぜかほっとする食べものだ。
でもラーメンに、塩やしょうゆ、あるいはネギラーメンにマーボラーメンがあるがごとく
過橋米線にも牛、豚、羊、あるいはウナギなどのグを入れたものもあるし
辛いのもちゃんとある。

麺好きの日本人には、まだあまり知られていない、なかなかおもしろい食べものである。

(2007年11月16日号掲載)