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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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腰花の香り

ミスター世界(関根 正和)

「腰花」。それって食べもの?
そう、このコーナーに登場する以上、立派な食材である。

これは、中国語で腎臓のこと。
医学用語としては、腎臓のことは
中国語でも「腎臟」(シェンザン)というが、
これを食べようというときには、医学用語だとどうもウマそうに聞こえない。
そこで、食材になると、「腰子」または単に
「腰」という別名を使うことになっている。
腎臓が腰の近くにあるからだ。
日本語でも、ホルモン焼きなどで食べるときには「マメ」という別名を使う。
形がソラマメに似ているからだそうだ。
中国語のメニューを探すと、腰という字のついた料理がいろいろみつかる。
爆炒腰花、涼拌腰花、麻花腰子、韭菜炒腰、椒香腰片、火爆腰などなど。

「腰」に「花」がついて「腰花」となるのは、腎臓のスライスに包丁で
碁盤の目のように切り口を入れて、舌触りがよくなるようにしたもののことで、
それが花のように見えるので、その名があるのだ。
イカでもそうすることがよくあって、花枝という名がつけられている。
ただし、「腰果」となると、腎臓ではない。
カシューナッツのことで、腎臓に形が似ているからその名がある。
腰の料理で僕が特に好きなのは、蝦腰麺。上海の江南料理だ。
エビの剥き身と腎臓の千切りを炒めて乗せたスープ麺で、
この両者の相性はすばらしい。

中国で食べるのは主として豚の腎臓だけだが、ヨーロッパ、
特にイギリスやフランスでは仔羊や仔牛の腎臓も、ごく一般的な食材だ。
イギリスでは、ステーキやローストビーフのつけあわせとして、
Kidney Pieという牛の腎臓と玉ネギを炒めてパイに焼きこんだものを、
必ずといっていいいほど食べる。
英語では食べものになってもそのままkidneyだが、
そこはウマイものに比較的無頓着なイギリス人だからだろうか。

そこへいくとフランス語は、中国や日本と同じく、
「腎臓」(ラン:rein)という医学用語をそのまま料理名に使うことはしない。
「rognon」(ロニョン)というのが食材名だ。
(ただし、rognon blanc、つまり白いロニョンというと、
睾丸のことになるから注意注意)
そのロニョンだが、僕もフランスで何度も食べたことがある。
その味はというと…。

最初の一口を食べると、はっきりいってオシッコ臭い。
ところが、何口か食べているうちに、それがまったく不快でなくなってきて、
美臭と感じるようになってくるから不思議である。
肝臓(レバー)のような「内臓! 内臓!」という臭いではなく、
個性を主張しながらもまろやかで、ソースや他の食材とうまくからみあう。
そして舌触りも、肝臓のようなザラつきがなく、
サラッとした感じで、歯に心地よい。
そして、いちばんの驚きは、食べ終わって、トイレに立ったときに訪れる。
食事直後のトイレというのは、得てして尿の臭いが気になったりするものだが、
このときばかりは美臭になってしまうのである。

(2008年1月16日号掲載)