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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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スイカの秘密

ミスター世界(関根 正和)

スイカとかけて何と解く?
ピザと解く。
そのココロは?
どのスライスも、はじめのひと口がいちばんおいしい。

わかっていただけますか?
つまりですね、スイカを包丁で切って、あれは何形というんですかね? 
下が丸くって上が三角にとんがっている格好。
そのとんがったところにかぶりつく。
冷たさが少し歯にシミて、汁が口の中にほとばしって、甘さと、
スイカ独特のちょっと青っぽい香りが鼻腔をつきぬける。

夏の暑いときなどにはコタエられないが、じつはスイカというのは、
最初にかぶりついたときがいちばんコタエられなくて、二口目、三口目となってくると
だんだんよろこびが下がってくる。
あの丸くカーブした皮の近くまで食べ進み、ピンク色の部分もがんばって食べ
(ここは全然甘くない)、このスライスを終了し、ふたつ目にとりかかる。
するとみごとにうまさがリセットされて、二切れ目のひと口目はコタエられない味にもどる。
これが三切れ目、四切れ目、とすべて同じで、新しいスライスにかぶりつくときに、
ワクワクとしたよろこびを覚えるのである。

どうです、ピザも同じでしょう?
ピザ・スライスをひとつ手に取る。
で、これも三角にとんがったところにかぶりつく。
したたり落ちるチーズ、ピザの生地はほとんど口に入って来ず、
チーズとその上にのったトッピングの味と香りが口に広がる。
うまいですねー。
で、二口目、三口目、と進み、最後は丸い部分でドテのように盛り上がっているところまで来る。
まあそれはそれでカリカリとしておいしかったりしないこともないが、最初のひと口とは逆に、
チーズやトマトの味はもはやなにもせず、焼いた小麦粉の味だけだ。
スイカの皮のごとく、このドテの部分を食べ残す人も多い。
僕もそのひとりです。
そして二切れ目にとりかかると、うまさがみごとにリセットされる。
そして三切れ目、四切れ目も。
ね? 同じでしょう。

ところで、スイカのいちばんおいしいところはどこだろう?
多分、日本ではないかと思う。
LAのスイカはいまいちピンとこない。
もしかすると、スイカは日本の夏のような湿度の高い蒸し暑さのなかで、
キリッと冷やして食べてこそ、うまさが発揮されるものかもしれない。

東南アジアでも、路上マーケットなどでスイカを売っているのをよく見かける。
でもスイカだと気づかないこともある。
真っ黒なかたまりなのである。
スライスしたスイカの全面を、ハエが覆い尽くしているのだ。
売り子はハエを追い払わない。
なぜならば、ハエが多く群がっているスイカほど甘いという証拠だからだ。
僕には買って食べることができないのでわからないが、
もしかしたら真っ黒スイカがいちばんうまいのかもしれない。

(2008年6月1日号掲載)


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