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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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不思議なアイスティー

ミスター世界(関根 正和)

アイスティーには、いろいろな不思議がある。

まず第一に、この飲みものはアメリカ人のあいだで
何ゆえにこんなにポピュラーなのだろう?
もちろん、他の国でもまったく飲まないわけではない。
ソフトドリンクとしての缶入りアイスティーは
マーケットで売っているし、カフェやバルで
注文することはできる。
でも、アメリカにはこれを食事と一緒に飲む人が
べらぼうに多い、というところが珍しい。
コーヒーショップなどで見渡すと、ホットティー(紅茶)を
飲んでいる人はほとんどいないのに、
アイスのほうはお客の半分以上が飲んでいる。
近ごろのファーストフードの普及と一緒になって、コーラ類を食事と共に飲む習慣は
世界中に広がっているのに、アイスティーのほうはそうではない。

ちなみに、ヨーロッパ人が食事中に飲むものとしていちばん一般的なのは、
もちろんワイン、そしてボトルの水だ。
炭酸入りとそうでないのと、どちらもポピュラーである。

さてそのアイスティー、アメリカ人のことだから当然ストレートではなく甘くして飲むわけだが、
そこで次に不思議に思うのは、テーブルには粉の砂糖(または人工甘味料)しか出てこないことだ。

日本のレストランや喫茶店なら砂糖を水に溶かしたシロップが出てくるから、
冷たいアイスティーでもすぐ溶けるのだが、粉のままの砂糖ではいくらかき混ぜたところで
ちょっとやそっとでは溶けてくれない。
なかなか甘くならないから、どんどん砂糖を投入し、ザラザラのままの
溶けていない状態で砂糖を過剰摂取するということになる(僕のことです)。

まだある。
もうひとつ不思議に思うのは、コーラ類でも同じことだが、
必ずグラスあるいは紙コップに、ストローを突き刺して飲むことだ。
僕はストローは決して使わない。
だって、直接コップから飲むことで、あの冷たいアイスティーが唇に触れながら
口の中全体にひろがっていき、その香りが鼻腔に抜けていく、
それでこそアイスティーのうまさを感じることができるのでしょう?
ストローで口の奥までいきなり吸い込んで喉に流し込んだって旨くはないと思うんですけど。

最後にもうひとつ。
あの、ピーチだのラスベリーだのチェリーだの、フルーツの香料を加えたアイスティー、あれね、
紅茶本来の香りがどこかへ消え去って、甘ったるい別の飲みものになってしまうんですけどね。

いちばんおいしいのは、アールグレーの葉だけでいれたアイスティー。
ちなみに、僕が家でつくるときは、イギリスはFortnum & Masonのアールグレーと決めている。
ヘンなこだわりを持っているわけではないつもりだが、そもそもおいしい紅茶というのは
世界広しといえどもイギリスとインドにしかないといつも思っている。
このアールグレーの葉をふつうの倍くらいポットに入れ、
よーく煮立った湯をそそぎ、おそろしく濃い紅茶を作る。
これをグラスに注いで砂糖をふつうの倍くらい入れてよくかきまぜる。
そしてそれをすかさず、氷を淵まで詰め込んだトールグラスに一気に移す。
不思議なほどおいしい飲みものができますよ。

(2008年7月1日号掲載)


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