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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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舌の舌触り

ミスター世界(関根 正和)

今年の冬のバケーションは、イタリアのアルベロベッロに行くことにした。とんがり屋根が並ぶ、世界遺産の町である。その町のことを考えていたら、突然、牛タンが食べたくなった。なぜだかさっぱりわからない。なぜ突然舌が食べたくなったんだろう???

それはさておき、牛タン(いうまでもなく、英語の「tongue」が語源)、つまり牛の舌は、牛の部位のなかでいちばんおいしいところだ、と常々僕は思っている。

立派な理由がふたつある。
ひとつは、豚でもチキンでも、あるいは魚でもそうなのだが、彼らがいちばんよく動かす場所、それがすなわちいちばんおいしい部位なのだ。そこにホルモンが溜まるのか、乳酸が溜まってイノシン酸にかわるのか、よくわからないが、とにかくおいしいことはまちがいない。チキンならモモ、魚なら目玉の周りである。ほら、牛の姿を思い出してください。いつも舌を動かして反芻しているでしょう? だからうまいのです。タンは、脂身から脂を抜いてうまみだけを残したような味わいがある。

そして、もうひとつの理由は、舌触りである。そう、舌の舌触り。
ほら、恋人の舌、こんなすばらしい舌触りのものはないと思うでしょう?
あれを思い出させてくれるのである。その舌が牛のそれであろうとも、それがチョン切られてシチューになってしまっていようとも、焼肉になって焦げていようとも、あの表面のちょっとザラザラした感触は、口のなかで自分の舌とからませるとセクシーさを感じずにはいられない。

舌の舌触りが好きなのは僕だけじゃない。たとえば僕の愛犬は、僕の舌を舐めることをもって至上の喜びとしているようで、夢中になって舐める。

日本の焼肉屋でも「タン塩」は人気があり、焼いた舌にレモンを絞って塩をふって食べるとえらくうまい。タン専門の店もあり、僕は東京で食べに行ったことがあるが、いまでもあの味は忘れられない。牛タンしゃぶしゃぶ、なんていうのをやっている店もある。

ヨーロッパでは石器時代から食べられているそうで、いまではタンシチューにして食べることが多い。赤ワインやタマネギと煮込まれたタンは、トロトロととろけそうで、パンや赤ワインと猛烈によくあう。ホッペタのシチューもうまいが、それと双璧をなす。

メキシコでも、「lengua」すなわちタンは、タコスのグとしてポピュラーである。LAでも、アメリカナイズした店ではなく、メキシコ人だけをあいてにしているような店では、ソフトタコにタンを煮たものを乗せて供する。これはとてもうまいです。

韓国人もフィリピン人もタンを食べる。
舌が好きなのは世界共通、人類動物普遍なのである。

(2008年11月1日号掲載)