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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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マグロなビーフステーキ

ミスター世界(関根 正和)

大晦日は、ローマだった。

2008年最後の食事は、ローマで最もおしゃれな通り、ベネト通りからちょっと入った、トスカーナ料理の店にした。

第一の皿は、冬のトスカーナの風物詩、白トリュフをたっぷり使ったタリアテーレ。涙が出るほどおいしかった。もったいなくて、麺を一本ずつ、ゆっくり味わって食べた。

メインコースは、ビステカ・アラ・フィオレンティーナ、すなわちフィレンツェ風Tボーン・ステーキ。
 
この、トスカーナ地方フィレンツェの名物は、フィレンツェに行くたびに必ず一回は食べることにしているが、ローマで食べたのは初めてだった。

この世界にまたとないステーキに、あらためて言葉もなく、ただ感激あるのみであった。「ちょっと、オーバーじゃないの?」とおもうでしょう? ステーキは神戸牛か松阪牛が世界最高じゃないの?

僕の意見はこうです。

神戸牛や松阪牛の霜降り肉は、もちろん柔らかくて風味がすばらしい。
しかし、その風味は霜の部分、つまり脂身のうまさによるところがおおきい。
そこへいくとトスカーナ牛は、ほとんど霜が入っていない。つまり英語でいえば「lean」である。

突然寄り道しますが、英語の「lean」をイタリア語でなんというか、というと、「magro」といいます。マグロみたいでおもしろいでしょ?つまり、マグロのトロはマグロじゃない。
 
で、そのマグロなビーフは、肉の赤身自体から滲み出るうまみ、これがすばらしいのである。

焼き方は単なる炭火焼き。
口に入れて噛むと、神戸牛のように脂身が溶けてうまさが流れ出てくるのではなく、肉の繊維質自体からジュースが染み出してくる。
肉の縁に脂身はついているが、硬くて食べられない。

肉にはスジがある。
柔らかさでいえば、神戸や松阪とは比較にならない。
しかし、噛めば噛むほど味が出てくる。
焼きかたはしっかりレア。

気がつけば、注文したときに、「焼き方は?」って聞かれなかったなあ。
レアこそがステーキのいちばんうまい食べかただと決まっているからだろう。フィオレンティーナはレアしかないらしい。
 
もともと僕はステーキは必ずレアなので、まったく文句がない。
焦げ目が適度についていて、その香りがまたすばらしい。
おそらく、この肉をしゃぶしゃぶやスキヤキに使ったらおいしくないだろう。それは神戸や松阪の守備範囲である。

しかし、ステーキになったら、トスカーナ牛に軍配をあげてしまう。
これが僕の2008年の最終結論であった。

(2009年2月1日号掲載)