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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

【第11回】落としどころ、根回しの文化はアメリカ人にきちんと教えるべき

アメリカ人と共に働く技術

増田義彦◎2004 年渡米。某日系IT企業社長を歴任。Children Discovery Museum of San Jose 元理事。Japan Business Association of Southern California元会長。オーロラ日本語奨学金基金会長。

アメリカで10年間、数百人のアメリカ人の指揮を執ってきた日本人社長が、アメリカ人と働く極意を伝授します。


落としどころ、根回しの文化はアメリカ人にきちんと教えるべき

アメリカでも落としどころという感覚はあると思います。交渉などをしていると「Common Ground」というような言葉が使われますが、これに近い感覚でしょうか?

交渉の際、アメリカ人は会議における激しい議論の応酬の中で、落としどころを見つけようとします。一方、日本人は事前の根回しで落としどころを見つけておくため、会議は事前に決まっている落としどころを確認する場に過ぎません。

例えば、あるパートナー企業との提携のあり方について、日本の本社と意見が対立したとします。事態を打開するために、子会社の社長と日本の役員が会議をすることになりました。この会議で、米国子会社の日本人社長が、日本の役員に説明するための資料の作成を、部下に依頼したとします。もし、部下が優秀な日本人駐在員であれば、まずその部下は米国子会社案と日本本社案を比較検討し、どちらも受け入れやすい3つ目の案、つまり落としどころを見つけます。会議の資料には、3つ目の案のメリット、デメリットが書かれていて、誰が見ても第3案(落としどころ)が、ベストな案であることが分かるような構成になっています。また、この部下は、事前に会議の出席予定者を調べ、その人たちにこの資料を見せ、彼らが受け入れやすいように微調整を加えます。難しい案件では何回も何回も彼らのもとに足を運び、落としどころを見つけるために粘ります。こうして事前に落としどころを決めてしまうので、会議はあくまで儀式にすぎません。

ところが、米国人の優秀な部下に同じように資料作成を頼むと、日本人から見るといい加減としか思えないような資料が出てきます。パワーポイントに3行。1行目が米国側の主張、2行目が日本側の主張、3行目が会議で決定すべきこと、というのが典型的な内容です。


アメリカ人はトップに期待し、日本人は部下に期待する

アメリカ人は、「落としどころは会議における激しいやりとりの中でリーダーが見つけ出すもの」と思っています。彼らが期待するのは、「米国の社長と日本の役員が自らの主張をきちんと説明し、会議で決定すべきことを確認。その後の激しい議論の中で、落としどころ、つまり『Common Ground』を見つけ出す」ことです。こうした会議では、米国人部下の資料で十分なわけです。

トップ同士の会議は、部下同士が議論して解決できなかった案件を議論する場。つまり、最も難しい案件を解決する場です。米国では、こういう会議で落としどころを見つけるのは、最も経験と知識を持ったトップの仕事です。難しい問題の落としどころを見つけられるからこそトップなのです。一方、日本では、落としどころを見つけるのは部下です。部下は、事前に落としどころを見つけ、根回しをしておくことを期待されます。それが優秀な部下なのです。

アメリカ人はトップに期待し、日本人は部下に期待するという、この違いは深刻です。アメリカ人の部下と日本人上司が一緒に会議に出れば出るほど、アメリカ人の部下は上司のリーダーシップの弱さに失望し、日本人の上司は部下の事前準備の不十分さに失望します。この問題を解決するには、「落としどころ」とか「根回し」といった、日本特有の仕事のやり方をアメリカ人に教える必要があります。こうした日本のビジネス習慣には優れた側面があるので、自信を持って教えることです。

もう一つの解決法は、日本の本社に米国式のやり方を理解してもらうことですが、日本人の思考を変えるのは大変ですので、あまりお勧めできません。米国人の方が異文化に対する柔軟性があると思います。いずれにせよこれは大変な仕事で、社長にしかできません。


(2015年1月1日号)