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今週のオススメシネマ

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

Babel

伝達手段を失って初めて気づく
本当に本当に伝えたいキモチ

ジャンル:ドラマ

オススメ度:★★★★★

Rating : R
◎出演 | ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、役所広司
◎監督 | アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ

©2006 Paramount Vantage

(2006年11月16日号掲載

ジャンル: モロッコの砂漠で1発の銃弾が観光バスを直撃したことにより、運命を狂わされるアメリカ人夫妻のリチャード(ピット)とスーザン(ブランシェット)。その銃弾を放ったのは、ライフル銃でふざけあいをしていたモロッコの村に暮らす幼い兄弟。そのライフル銃をモロッコのツアーガイドに渡したのは、聴覚障害を持つ娘・チエコ(菊地凛子)とのぎこちない関係に悩む日本人ハンター、ヤスジロウ(役所)。一方、米国・サンディエゴでは、リチャードとスーザンの幼い子供たちを連れてメキシコに渡った子守りのアメリア(エイドリアナ・バラッツァ)が、米国との国境で瀕死のトラブルに見舞われる。地球上のまったく違う国々で、ボキャブラリーが少ない子供や現地の言葉を話せない異国人、音のない世界に住む少女が、「コミュニケーション」に傷つきながら、自分なりの表現の仕方を見つけ出していく…。

 このモロッコとアメリカ、メキシコ、日本で進行する別々のストーリーを感傷的に編み上げるのは、オムニバスの王様(と、私は呼びたい)、イニャリトゥ監督。代表作は、家族との確執や過去の悲劇に苦しむ3つの人生を、ショーン・ペンとナオミ・ワッツ、ベネチオ・デル・トロを配してオムニバス形式で描きながら、所々で強烈な「つなぎ」を見せた『21 Grams』。イニャリトゥ監督の作品には、大袈裟な演技や印象に残る決め台詞、ヒーローやヒロインが存在しない代わりに、いつも独特のスタイルで人間の心の襞が映し出されます。本作でも、コミュニケーション手段が溢れている環境では素直になれない登場人物たちが、自分の思い通りにならない状況に陥った時に、魂の声で叫び出す様子を描いています。

オムニバスの王様が編み出す
コミュニケーションのパワー


 それにしても、日本のストーリーの主役である菊地凛子の演技には釘付けに。聴覚障害をもった女学生の役であるため、「英語の壁」がないこともありますが、手話とノートに走らせるペンでコミュニケーションをする魂のこもった演技には、米国俳優たちも脱帽。内に秘めた迫力と妖艶さ、同居する儚さと危うさは、アジア系女優の魅力を新たにアピールしてくれたよう。そのパワフルなメッセージは、まさにユニバーサルで、今後の活躍がとても楽しみです。
 父親役の役所広司も、日本を代表する俳優の風格に溢れた渋い演技を披露。ピットやブランシェット、『Motorcycle Diaries』のガエル・ガルシナ・ベルナル、『Crash』のマイケル・ペーニャなど、主役級のトップ俳優たちが、誰一人目立つことなく、ストーリーの中に溶け込む様も新鮮です。

 言葉が通じないことによるトラブル、外国人であることによる回り道など、日頃、コミュニケーションの大切さを身に染みている私たちにとって、痛いほどに納得できる1本。地球上を駆け巡るコミュニケーションのパワーを、心の耳で感じ取ってください。