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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

The Queen

謎めいた英国王室と
知られざる女王の心

ジャンル:ドラマ

オススメ度:★★★★★

Rating : PG-13
◎出演 | ヘレン・ミレン、マイケル・シーン
    ジェームズ・クロムウェル、他
◎監督 | スティーブン・フリアーズ

©2006 Miramax Films

(2007年12月1日号掲載)

ジャンル: 1997年8月31日、衝撃のニュースが世界中を悲しみに包んだ。ウェールズ公妃であったダイアナ妃が、パリで激しいパパラッチの追跡から逃れるなか、無残な交通事故により急逝したのだ。本作は、ダイアナ妃の死の直後から、英国政府とロイヤルファミリーを包み込んだ混沌と思惑、感情の起伏を描いていく。

 「ダイアナの交通事故は王室には関係のない、プライベートな事件」とし、親族のみの葬式を主張する英国王室に対し、ダイアナ妃が残した対人地雷廃止運動やエイズ啓発活動などへの功績と国民からの絶大な人気を考慮し、国葬を提案する英国政府。頑なに国民の前に姿を見せることを拒むエリザベス2世(ミレン)と、公の献花の必要性をアドバイスするトニー・ブレア首相(シーン)。募り続ける国民の悲しみは、やがて英国王室の無慈悲に見える態度への怒りと変わり、メディアはエリザベス2世の沈黙を「君主制の危機」と呼ぶようになる。冷静と無関心を保ち続ける王妃の心の中では、何が起きていたのか?

セレブ以上に注目される
女王であっても1人の女性

 伝統的な王家ながら、途切れることないスキャンダルがゆえに、セレブ以上に注目を浴びている英国王室。なかでも確固たる地位を築いているエリザベス2世に焦点を当てるのは、女性の「したたかさ」と「はかなさ」を描くスペシャリストのフリアーズ監督。パスポートを手にするために試練に耐え続けるトルコ人女性を描いた『Dirty Pretty Things』や、人気劇場の衰退とそのオーナーの中年女性の悲哀を描いた『Mrs. Henderson Presents』で披露した人間観察が、女王の心の鍵を開けてくれます。

 本作の中で、表面上は憎まれ役である女王は、1人森の中へ入り込み、迷い鹿を見つけて「美しいわね」と目を細め、銃声を聞いて「早く逃げなさい!」とたしなめます。そして狩人に捕らえられ、命を落としてしまった鹿の姿を見て、人知れず嘆くのです。それはまるで、ダイアナ妃へ向けられた静かな弔いのよう。「怒りや悲しみなどの感情は表に出さず、自分の中に向けてきた。それが女王に求められることだと思っていたから」ブレア首相に心を開いた女王の言葉です。

 所々に織り交ぜられる故・ダイアナ妃の生前のインタビュー映像に、胸が詰まると同時に、当時、メディアを通して日本に住む私のもとにまで届けられた「冷酷な英国王室」のレッテルを思い出し、いたたまれない気持ちになりました。「公務が第1、自分のことは二の次」と幼い頃から教えられてきたエリザベス2世と、「私は国のプリンセスではなく、『人々のプリンセス』」と伝え続けたダイアナ妃。生きた時代と求められた要素が違っていただけで、本当のところは、感情があり、私生活があり、傷つくこともある女性なのだということ。1人の女性がメディアと世論に傷つけられる様子は対岸の火事ではないと、改めて思わされた1作です。