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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

Munich

空前の報復計画に隠された
「自問自答」と「良心の呵責」

ジャンル:ドラマ

オススメ度:☆☆☆☆

Rating:R
○出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、ジェフリー・ラッシュ、他
○監督:スティーブン・スピルバーグ

©2005 Universal Pictures

(2006年2月1日号掲載)

ジャンル: 1972年9月、ミュンへン・オリンピック。世界中が期待いっぱいに競技開始を待つブラウン管の向こうで、悲劇的なテロ攻撃が起きた。パレスチナの過激派組織「ブラック・セプテンバー」が選手村を攻撃し、イスラエルのオリンピック選手11人のうち2人を殺害、9人を人質にしたのだ。そして、緊張の21時間後、ニュースキャスターは11人全員が殺害されたことを報じる。「They're all gone.」。本作は世界中を震撼させたこの惨劇を受けて、秘密裏に実行された空前の報復計画を描いています。

 この計画のリーダーとなるのが、若く聡明なイスラエルの愛国者・アブネル(バナ)。使命は、事件の黒幕であるテロリスト11人を暗殺すること。イスラエルの情報機関・モサドのエフライム(ラッシュ)から、4人の仲間と資金を与えられ、妊娠している妻のもとを去ったアブネルは、ジェノバからフランクフルト、ローマ、パリ、ロンドン、ベイルートと渡りながら、一人一人、標的を殺していく。

 爆破、銃撃、陰謀、人違いの殺人・・・。気が狂いそうな非日常の中、支え合ってきた仲間たちとの絆も、やがて疑心暗鬼によって揺るぎ始める。「自分たちが殺しているのは、一体誰? これは正しい行為なのか?」。

現実は脚本よりもはるかにドラマチック!?

 この悲劇的な実話を描き出すのは、スピルバーグ監督率いる錚々たる製作陣。原作は、ミュンヘン・オリンピック事件とモサドの報復を著した、ジョージ・ジョナスの『標的は11人−モサド暗殺チームの記録』。脚本はピューリッツァー賞とトニー賞の受賞者、トニー・カシュナーと『フォレスト・ガンプ』のエリック・ロス。台詞の少ない作品に叙情をもたらす音楽を手がけるのは、巨匠ジョン・ウィリアムズ。

 『ET』のようなファンタジー作品、『ジョーズ』『マイノリティー・リポート』『宇宙戦争』のようなアクション作品に、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ターミナル』などのドラマと、映画魂が尽きることのないスピルバーグ監督ですが、実話をもとにした本作は『シンドラーのリスト』の社会派ライン。白黒に近い世界が、悲しみを溢れさせる様子も『シンドラー…』によく似ています。報復グループのリーダー、アブネルを演ずるのはオーストラリア出身のエリック・バナ(『ブラックホーク・ダウン』)。「自分の良心」という最大の敵と闘う苦渋を、パワフルに表現する姿に痛いほど引き込まれます。

 実話の残酷さをそのまま伝えるための手段なのか、爆破や銃撃シーンがひたすら続くので、お子様や火や血が苦手な方にはおすすめできません。きっと現実は、きれいに起承転結するドラマより、はるかに厳しいもので、同時にどれほど素晴らしい脚本家でも思いつかないような想いに満ちているもの。CGアニメやファンタジー映画で近未来を覗いてみるのもいいけれど、歴史を振り返って「人間」と向き合うことも大切なのでは? と語りかけるような作品です。