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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

In the Valley of Elah

『クラッシュ』のハギスが
「エラの谷」に映すメッセージ

ジャンル:ドラマ

オススメ度:★★★★

Rating: R
○出演|トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン
    ジェイソン・パトリック、他
○監督|ポール・ハギス

©2007 Warner Independent

(2007年9月16日号掲載)

ジャンル: ポール・ハギスの監督スタイルが好きだ。起承転結のはっきりしたお決まりのハリウッド脚本ではなく、最初から最後まで同じペースで、各シーンに無駄なくヒントを散りばめ、見終わった後に初めて、明確なメッセージが浮かび上がる。すべてのつじつまが合う。最終的には「ドラマ」だが、その過程はいつも「サスペンス・スリラー」であるのも特徴だろう。

 これだけ多くの人種が溢れていながら、不思議なほどに人間同士のぶつかり合いが希薄なLAの街を舞台に、「偏見」というテーマを浮き上がらせた『Crash』。このアンサンブル・キャストを配した低予算作品は、インディペンデント映画の実力を見せつけ、2年前にオスカーを始めとする賞レースを席巻した。脚本のみを担当した『Million Dollar Baby』や『Casino Royal』『Letters from Iwo Jima』といったメジャー作品では、ハリウッド王道路線を行ったものの、メガホンを握れば、独特のハギス・スタイルが顔を出す。

実在の事件をもとに
強いメッセージを伝える


 退役軍人のハンク(ジョーンズ)は、イラクの最前線から帰国した直後に謎の失踪を遂げた息子マイク(ジョナサン・タッカー)の行方を捜していた。一方、ニューメキシコの空き地では身元不明の遺体が発見され、地元警察と軍捜査隊が捜査のなわばり争いをする。誰もが魂の抜けたダルい仕事をする中、地元警察の捜査官でシングルマザーのエミリー(セロン)のみが、正義感とハンクの情熱の下に、息子と遺体の関係を追究し始める。

 イラクで、アメリカで、戦場で、軍隊で、そして兵士たちの心の内で、何が起きているのか? 兵士仲間たちの証言や、マイクからのメールに添付された謎の映像を解き明かすうち、父の知らない息子の素顔が明らかになっていく−。

 本作は、プレイボーイ誌に掲載された記事“Death and Dishonor”に綴られた実在の事件をもとに、“XX”という強いメッセージを意外な形で伝えてくる。スタンリー・キューブリックがベトナム戦争下の兵士たちを描いた『Full Metal Jacket』や、ジェイク・ギレンホール主演で湾岸戦争の様子を映し出した『Jarhead』と共通するテーマも、寡黙な父親の目を通して描くところがハギスらしい。家で息子の帰りを待ち続ける母のスーザン・サランドンや、堕落した警部補のジェイソン・パトリック、ひょうひょうとした兵士仲間のジェームズ・フランコなどの配役も的確だ。

 地味なセーターにチノパン姿で試写会場をゆっくりと歩く監督の姿は、いたって普通の穏やかそうなオジサマ。その裏に何を秘めているのか、映画ライターとして限りなく興味をそそられる映画人の1人である。