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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

My Blueberry Nights

失恋して、傷付いて、甘酸っぱく、
癒されたことはありますか?

ジャンル:ドラマ

オススメ度:★★★★★

Rating : PG-13
◎主演 | ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、他
◎監督 | ウォン・カーウァイ

©2008 Weinstein Company

(2008年5月1日号掲載)

ジャンル: 彼の作るものは何でも大好き。そんなお気に入りのアジアンシェフが、初めて西洋料理のバフェをオープン。色とりどりのおかずの中から、大好きなものだけを選んで自分のプレートを作ったら、意外に食べ合わせが良くて後を引く。素材の良さもあるけれど、この味が出せるのは彼だけ。今から、次の招待状が待ちきれない。

 私にとって、この作品はそんな映画だ。アジアンシェフとは、もちろんカーウァイ監督のこと。『恋する惑星』や『天使の涙』は学生時代のバイブル、トニー・レオンとマギー・チャンの『花様年華』は5本の指に入る大好きな、大切な作品。渡米してから観たミケランジェロ・アントニオーニ&スティーブン・ソダーバーグとのオムニバス『愛の神、エロス』や木村拓哉出演の『2046』は、切ないアジア流の愛の形に、自分のアイデンティティーを重ね合わせたもの。

 そんなアジアン・カリスマシェフが手がけた初の英語作品に登場する「西洋のおかず」は、これまた信じられないほど、大好きな素材ばかり。プレイボーイじゃない役を演じる時の姿がたまらなくいいロウに、自分勝手な役を演じるとセクシーなレイチェル・ワイズ、強がるだけ強がってボロボロに崩れる時に、確実にもらい泣きを誘うポートマン。同じ素材でも調理の仕方が、西洋シェフたちとはひと味違う。

切なくも優しい時が流れる作品
すべての瞬間が心地良い

 そして、大切な味付けにはアジアンスパイスを忘れない。カーウァイ監督が音楽を依頼するつもりだったところ、その容姿と声が気に入り、主役にビビッときたという歌姫ジョーンズは、インド人シタール奏者ラヴィ・シャンカールを父に持つ。初主演のピュアな姿がいい具合に浮いていて、個性の強いアカデミー賞ノミネート俳優たちと織りなすロードムービーを優しい雰囲気にしている。

 そんなジョーンズが演じるのは、恋人に裏切られ傷心のエリザベス。NYの街角カフェのオーナー、ジェレミー(ロウ)と、彼の焼くブルーベリーパイに慰められながら、単身アメリカ横断の旅へと出るエリザベス。メンフィスからラスベガスへ、ウェイトレスとして働きながら、さまざまな理由で傷付いた男女に出会っていく。妻に去られたことが原因で飲んだくれる警官(デビッド・ストラザーン)と、その元妻(ワイズ)。人を信じないことを自分の信念とする、若い女ギャンブラー(ポートマン)。それぞれ人々の中に深く潜む淋しさと孤独に触れながら、自分自身と向き合うエリザベスは、NYに戻り、また甘酸っぱいブルーベリー・パイを口にして…。

 すべての瞬間が心地良くて、ずっとそのシーンに浸っていたい気持ちと、早く次のシーンを見たくてたまらない気持ち、いつまでも映画が終わらなければいいのにと思う気持ち。「失恋」や「傷」を、こんなにも甘酸っぱく描ける監督は、きっとほかにいない。早く次のひと口が味わえますように…。