エンターテイメント

映画の穴

心あたたかい、紳士的コメディアン

Steve Martin

「脚本は孤独で内向的な作業だし、
演技は外交的でフィジカル。両方できてラッキー」

 哲学家であり絵画の収集家。このプロフィールを聞いただけで、スティーブ・マーティンの顔を思い浮かべる人はおそらくいないだろう。だが、「エンターテインメントは芸術」と言う彼の、老若男女をまんべんなく笑わせようとする姿勢は、まさにその紳士的な内面から来ているはず。

 子供の頃、『ThreeAmigos!』(邦題『サボテン・ブラザーズ』)を、田舎の劇場で観て衝撃を受けた。コメディー映画が、実際に面白いものだと知ったのは、それが初めてだった。以来、スティーブ・マーティンファンの私は、彼のコメディーを見て、時々ほろりとさせられてしまうことすらある。毒のない、あたたかい笑いが特徴だ。

 「僕は映画の一場面やジョークを書くのが楽しみなんだ。ステージでは僕が目の前にいるから、観客は多少義理で笑ってくれることもあるかもしれないが、映画館ではそれがないから、笑い声を聞くとより満足感がある」。

 いつも口の両端を上げてニコニコしている彼だが、どこか、もの寂しげではある。

 「誰しも暗い部分を持っているだろうが、遺伝子からくる部分もあるだろうね。いつもハッピーでいられる人もいる。僕の友人に、悲しい時でも顔が笑っているやつがいるよ。面白すぎる。ぼくは中間くらい。とは言え、この仕事の特徴として、いつも批判にさらされている。 いい日と悪い日の繰り返しだよ」。

 人気と実力の両方を持ち合わせている彼でも、傷つくことはたくさんあるようだ。もう1つのトレードマークである白髪についても、こんな話をしてくれた。

 「たぶんみんな観たことないと思うけど、これまでに2度、役のために髪を染めたことがある。普段は批評を気にしないんだが、この時ばかりは役に立った。『スティーブ・マーティンが髪を染めた時は気をつけろ』ってね。だから、髪は染めないことにしたんだ!」。

 まったく、いつでもジョークをとばす習性のあるコメディアンたちは、マスコミとの付き合いも大変そうだ。新作の『The Pink Panther』の記者会見での出来事。

 「共演のケビン・クラインやジャン・レノ、エミリー・モーティマーも僕も、一生懸命ウィットを競って記者会見に臨んだんだが、ビヨンセ(・ノウルズ)は何を聞かれても『ここにいられることにワクワクしていますし、この方たちと共演できて光栄です』とだけ答えていた。それで、でき上がった記事を見てみると、ビヨンセのコメントしか載ってなかったんだ。すごいだろ? 彼女は本当にスターだよ」。

 彼自身は、ピンクパンサーの役にすっかりはまってしまったみたいだ。

 「いつもは自分で訛りをでっちあげるんだが、今回はちょっとリアリスティックにやりたかったから、すぐにコーチについてもらったよ。演じるのも大好きだし、脚本を書くのも大好きだ。2つはまったく違った仕事。脚本は孤独で内向的な作業だし、演技は外交的でフィジカル。両方できてラッキーだよ。映画がうまくいって、続編が作れるといいんだけどね。あのキャラクターも衣装も大好きだし、アイデアもどんどん湧いて来る。それにもっとあのチャーミングなフランス訛りを話したいしね」。

 プレッシャーよりも、毎日が楽しくて仕方がない少年といった顔である。

【主なフィルモグラフィー】
『Cheaper by the Dozen II』(2005)
『Cheaper by the Dozen』(2003)
『Bringing Down the House』(2003)
『Bowfinger』(1999)
『Father of the Bride II』(1995)
『Father of the Bride』(1991)
『Roxanne』(1987)
『Three Amigos!』(1986)
『All of Me』(1984)
『The Jerk』(1979)

[ 文:いしばし ともこ ]
The Pink Panther
監督:ショーン・レビー
出演:スティーブ・マーティン、ケビン・クラ
イン、ビヨンセ・ノウルズ、ジャン・レノ、エ
ミリー・モーティマー
PG・93 分
公開日:公開中
©:2006 Sony Pictures Entertainment