エンターテイメント

映画の穴

役者魂を守り抜く主婦

Annette Bening

新しいことを発見したり学んだりする旅を仕事でできるのだからとても幸運

 日本人で彼女の名前と顔を一致させられる人は、かなりの映画通かもしれない。アカデミー賞ノミネート歴3回、ゴールデングローブ賞ノミネート歴5回(うち1回受賞)など、輝かしい経歴の割にはハリウッドでは比較的地味な存在 である。

 「私はあまり仕事をしないから、出演する時には自分自身をかなり没頭させることができるの」。

 俳優で夫のウォーレン・ビーティーとの間に4人の子供がいて、女優であるよりも、妻であり母として過ごす時間の方が長いようだ。

 「どこでいつ撮影するかということが、出演作を選ぶ基準になるわ。ずっと子供が欲しいと思っていたから、いつも子供のことが優先になるの。もし子供がいなかったらどういう人生だっただろうと考えることもあるわ。でも、新しいことを発見したり学んだりする旅をしてみたいと思ったら、仕事でそれができるのだからとても幸運だと思う」。

 舞台女優として評判をあげ、TV映画を経てハリウッド映画へと移って行くという、まさに「階段」を1歩1歩登ってきたタイプの人である。他の若い女優が、ギャラを基準に出演作品を選んでいるという実態がある中で、この人のような生き方は非常に好感が持てる。と言うかある意味、仕事は趣味もしくはライフワークであって、生活の手段ではないということが、彼女が幸運である証拠と言えるかも知れないが。

 新作『Running with Scis-sors』では、私生活とは正反対の、躁鬱病のために子供を手放す母親の役を演じている。

 「この仕事は撮影もここ(ロサンゼルス)だったし、神からの授かり物だと思ったわ。でき上がりにもとても満足している」。

 原作はオーガステン・バロウズの自叙伝を映画化したものだが、描かれている母親像は原作よりも映画の中で、より個性が顕著に表れている。

 「子供を精神科医のもとへ養子に出す母親には共感は持てないけれど、ライアン(監督のライアン・マーフィー)は、この女性をもっと好意的な人物にしたかったんだと思う。彼女が一体、どういう人生を歩んで来たのかを見せることに、興味を持っていたんじゃないかしら。それは特に映画では、普通脚本には書かれないような部分なのだけど、書かれていないところを演じるのが俳優の醍醐味よ。行動の裏側に垣間見られる内面をドラマにできた時、観客は初めてその人物に共感が持てるようになって、感動できるんじゃないかしら」。

 しかし、この様に役に入り込んでいる時、自宅に帰ってすぐに気持ちの切り替えができるのだろうか?

 「切り替えができないようなら俳優には向いていないの。役から抜け出せなくなるなんて、全然カッコ良いものじゃないわ。でも、いい演技というのは無意識の部分から出て来るから、そこに働きかけるようにするの。リサーチや準備をしている時こそが鍵。自分の意識を使って無意識の部分にたどり着く。するとカメラが回っている時に、予想もしなかったようなものが引き出される。それまで誰も考えてもいなかったし、議論もしていなかったような面が現れる。その時が最高の時よ」。

 グラマラスなハリウッドスターではなく、俳優としての俳優業を突き詰める普通の主婦アネット、である。

【主なフィルモグラフィー】
『Being Julia』(2004)
『American Beautiful』(1999)
『The America President』(1995)
『Bugsy』(1991)
『The Grifters』(1990)

[ 文:いしばし ともこ ]
Running with Scissors
監督:ライアン・マーフィー
出演:アネット・ベニング
   アレック・ボールドウィン
   ジョセフ・クロス
   ブライアン・コックス
   ジョセフ・ファインズ
R・112分 上映中
©Sony Pictures Digital Inc.
& TriStar Pictures