エンターテイメント

映画の穴

哲学を語る魔術師

Richard Gere

俳優は嘘をつくのが上手くないといけない。
それが契約だ

 演技をするということは、芸を披露するということなのだと、ある種の俳優を見て思うことがある。リチャード・ギアもその1人だ。 毎回キャラクター像の中に、するりと彼らしい多彩な芸を盛り込んでいる。

 「俳優というのは手品師だよ。僕たちのトリックを観客は10ドル払って観に来る。俳優は観客がトリックを信じられなくなるようなことは決してしてはいけない。嘘をつくのが上手くないといけない。それが契約だよ」。

 歌やピアノ、タップダンスなど、特にミュージカル的なパフォーマンスに注目されることが多く、アカデミー賞よりはゴールデン・グローブ賞の顔だ。しかし、新作『The Hoax』では実在の人物クリフォード・アーヴィングを演じ、さらに、ハワード・ヒューズの口調までも完璧にものにしている。並々ならぬリサーチと訓練がうかがえる。

 「クリフォードはギャンブラーだ。最初に嘘をついて勝ってしまうと、次はもっと大きな嘘をつくことになる。ギャンブラーの心理というのは負けに向かって進んでいく、ということ。負けに到達するまで突き進むのを楽しんでいるんだよ」。

 どうやら彼はこの作品の「嘘と真実」というテーマに人生哲学を見出しているようだ。

 「この映画を観た人たちと、1971年に起こったこととしてだけではなく、現在自分たちがどのように 真実と関わっているかを論じることができることに驚いているよ」。

 じゃあ、彼は日々、嘘をつかないのだろうか。
 「いつも(嘘を)ついてるね!(笑)。ほとんどの嘘というのは、自分を知らないことからくる。自分が真実の間をすり抜けて、物事の表面で浮かんでいるということに気がついていないんだ。嘘とはちょっと違う。でも誰だってwhite lie(悪意のない嘘)を言うもんだよ。『あの女性のこと見てないよ!』とかね」。

 そんなチャーミングなジョークも飛ばしつつ、仏教徒で人道家として知られている彼は、クリフォードの生き方から、人間の成長についても考えたようだ。

 「仏教の教えのなかに面白いのがある。虫も動物も人間も幽霊も、動くものは何でも幸福へと向かって動く、というんだ。自分が幸福だと思うものに向かって行く。でも皮肉なことに、幸福のルーツは苦しみだ。だから、幸福に向かって進んでいると思っていても、実際には苦しみへと向かっている。そして、ある時にはそれは逆転する。苦しみに向かうことはチャレンジだから、それを嫌って避けようとするが、本当はそれこそが幸福をもたらすことなんだよ」。

 どこで覚えたかわからないと言いながら、そんな話を聞かせてくれる姿がとても真摯であり、成功者の奢りなど感じさせない。

 「僕は苦しんでいたから仏教に入り込んだ。みんな表面ではうまくいっているように見えて、心のどこかでは何か違うと感じているものだろう。それも一種の嘘。世界中の人々が一つになっていると感じることこそが真実だ。みんながそのことに気がつけば、世界は変わるよ。でも、そう簡単にはいかない。ダライ・ラマに会って知った幸福の境地に自分も至りたいと思っても、ピアノを習い始めたばかりの時に大好きな演奏家のようには弾けないように、何十年も練習を重ねないといけないんだよ」。

©2007 Miramax Films

【主なフィルモグラフィー】
Shall We Dance?(2004 )
Chicago(2002)
Primal Fear(1996)
Pretty Women(1990)
Cotton Club(1984 )
The Officer and a Gentlemen(1982 )

[ 文:いしばし ともこ ]
The Hoax
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:リチャード・ギア、
   アルフレッド・モリーナ、
   ホーブ・デイヴィス、
   スタンリー・トゥッチ
Rated:R 上映時間:115分 公開中
©2007 Miramax Films