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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

vol.3 “スプーン”って何?

 よく一緒にプレーするスティーブはかなりのゴルフ通オヤジ。
人気プロゴルファーのスイング分析から新発売クラブの評価、
全米オープンの歴代開催コースや過去の優勝者までスラスラと語り、
ゴルフ雑誌の編集者も顔負けの雑学博士ぶりをいつも披露してくれる。
今日はスティーブの友人ティムも誘ってのラウンドとなったが、大繁盛のこのパブリックコース、
いつも週末はホールごとに各駅停車の大渋滞である。
日頃は気長なスティーブとティムも、さすがにちょっとウンザリした様子でカートの周りに集まり、
何気無く私のクラブを眺めている。

 「スティーブ、このスプーンってどういう意味だ?」。
日本から持ってきた私の3番ウッドのソールを見ながらティムが尋ねている。
「さあ、新発売のブランド名じゃないの?」とスティーブが大きな欠伸をしながら答えた。
私は何をつまらないジョークを言っているんだと思っていたが、
ふと気になって「…まさか、本当に知らないわけじゃないよな?」とスティーブに聞いてみると、
2人とも決して冗談を言っている様子ではなく、キョトンとして私の顔を見ている。
ゴルフのことなら何でも非常に詳しいスティーブが、
日本なら初心者でも知っている“スプーン”という呼称を知らない。
「4番ウッドがバフィー、5番がクリーク…」と子供に教えるように説明しながら
「でも意外だな。日本人ゴルファーなら誰でも知っているよ」と言った私に
「ふーん。まあ、日本のゴルフはヨーロッパから入って来ているからな」と
また意味不明なコメントを発した。
でも後日、そのコメントが正しい意味を持っていることを私は知らされることになる。


 数日後、こちらもゴルフ通のロバートのオフィスに仕事の打ち合わせで訪れた私は、
ふと思い出して聞いてみた。
「ねえ、ゴルフクラブでスプーンって知ってる?」。
ロバートは眉間に皺を寄せて、ウーンと声にならない音を発しながら
「聞いたことはあるが…」と答えた。
ロバートも知らなかったことに私はまた驚かされた。
「え? 3番ウッドのこと? なるほどね」と彼は頷きながら、
オフィスの書棚からゴルフの歴史満載という雰囲気の分厚い本を取り出し
、記憶を呼び戻す仕草をしながら対象となる文献を探し始めた。
「えーと…ほら、ここに出ているよ。昔のイングランドでは、
このようにすべてのクラブに名前が付けられていたことがわかる」と見せてくれた。
そこにはドライバーに始まり各アイアンに至るまで、確かにすべてのクラブの呼称が紹介されていた。
そしてロバートは私に聞いた。
「でも日本人は、ウッドは名前で呼ぶのにどうしてアイアンは番号で呼ぶの?」。
私はカウンターパンチをくらったボクサーのように、
想定外の質問に思わず息をのんで全身が硬直した。

 確かに日本人ゴルファーで、よほどの初心者でもなければ“スプーン”を知らない人は
まずいないと思うが、アイアンをそれぞれ名前で呼ぶ人にも出会ったことがない。
どうして日本人はウッドを名称で呼ぶようになり、アイアンは呼ばなかったのだろうか。
おそらく英語で全部覚えるのは大変で、ウッド数本が限界だったのでは?と思うが、
それは誰にもわからない。

 でも確かに日本のゴルフが英国から伝えられたことを再認識した出来事だった。
若い方々はご存知ないだろうが、ほんの15年ほど前の日本ではゴルフボールに
大小の2種類があり、ラージはアメリカ式、スモールはヨーロッパ(イングランド)式と
一見勘違いするほど微妙にサイズが異なり、
多くの人が混乱していた時代があったことが懐かしい。
「私はロサンゼルスで30年近くゴルフをしているが、
3番ウッドをスプーンと呼ぶゴルファーには出会ったことがない」とロバートは笑った。
少なくともゴルフでは日米で文化の違いは皆無と思っていた私は
この意外な新発見に興奮し、まるで好奇心を刺激された小学生のように、
または長いゴルフの歴史を探る評論家のような気分になり、
妙なうれしさで胸の鼓動が早くなっていたのだった。


ご参考: 各クラブの呼称
1番ウッド : ドライバー    1番アイアン : ドライビングアイアン
2番ウッド : ブラッシー    2番アイアン : ミッドアイアン
3番ウッド : スプーン     3番アイアン : ミッドマッシー
4番ウッド : バッフィ     4番アイアン :  マッシーアイアン
5番ウッド : クリーク     5番アイアン : マッシー
6番アイアン : スペードマッシー
7番アイアン : マッシーニブリック
8番アイアン : ピッチングニブリック
9番アイアン : ニブリック

語源: 
ドライバー:  長距離を運転するドライバーを意味します。
ブラッシー:  金属の真鍮の板という意味です。
昔のウッド・パーシモンの場合、ソールにドライバーは軽いアルミ板を使い、
ブラッシーからは重くする為に加工のしやすい真鍮の板を用いました。
スプーン: これは文字どおり、さじの形に似ているからです。
バッフィ: バフィングスプーンという棒で地を叩く道具から来ています。
クリーク: 擬音語の“CREAK”(キーキーと鳴る)から来たという説があります。
マッシー: 昔のスコットランドで使われた大きなおの、
あるいは短い鉄製のハンマー から来ています。
スペード: 土を掘り起こす農機具やすきの意味です。そこから名付けられました。
ニブリック: 人間の鼻、特にわし鼻の意味だそうです。

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