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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

vol.9 プロゴルファーの業務と義務 (後編)

前編のあらすじ:
横柄だった日本人プロが米国へ行ってガラッと変った新聞記事を読んだ私は、以前日本で行った取材を思い出した。最初に日本人プロの横柄な態度に疲れ、次はあのトム・ワトソン、そして最後はジャック・二クラスと大物が続く。さあ無事に乗り越えられるのか…

 * * * * * * * * * * * * * * * *

待ち合わせ場所に現れたトム・ワトソンは、
晩秋に相応しい、明るいグレー色のツイードジャケットにブルーのボタンダウンシャツ。
ネイビーと赤のレジメンタル・タイをキリっとしめ、
プロゴルファーというよりは若手の大学教授といった印象。
「遅れてしまってごめんなさい。ちょっと忙しくて…」と爽やかに、
しかし丁重に謝辞から入ってきました。
遅れてごめん、ですと? 約束の時間には4分ほど遅れただけですよ、ミスターワトソン。
カップヌードルでもお湯入れて3分待って箸を割ってかき混ぜたら、全部で5分はかかりますよ。
おー、何という実直さ。
一気に好感度が増し、その知的な男前ぶりが本物であることを感じさせました。
私がもし女性だったら、既にその時点で抱かれてもいいと思ったことでしょう。
そして私のつたない英語にもきっちりと眼を見て聞いてくれ、
時にはジョークを交えて分りやすく丁寧に答えてくれました。
30分という短い取材でしたが、私の全身は満足感と達成感で満ち足りていました。


少し補足しますが、トム・ワトソンは全米でも有数の名門“スタンフォード大学”を卒業しており、
飛行機に乗る時も小脇に抱えるのはゴルフ・ダイジェストではなくフォーチュンやニューズウイークといった(もしくはそういう印象がある)、知的PGA選手の代表格です。
数年前にシニア入りした時もPGAが制作した『トム、ようこそシニアへ』というCMが流され
(先輩のシニアプロ達に、ワトソンがいたずらされて苦笑いする傑作CM)、
ファンはもちろんのことPGAの協会や同業のプロ達から深く愛されていることを
無言で立証してくれていました。
その人格者ぶりは、米国から遠く離れたアジアの片田舎の街で、
英語の下手な素人のようなインタビュアーとの取材の場でも発揮され、
決してうわべの姿勢ではないことを示してくれたのです。

第一関門をクリアーした私には、
翌日に次なる最強の難関“帝王”ジャック・二クラスとの取材が待っていました。
でも本当の難関は本人ではなく、その周りにいたのでした。
私が取材会場に訪れると、帝王と契約している日本のメーカーから来た役員・部長・次長・課長
(お笑いコンビではない)・係長・バイト・お茶汲み・掃除のおばさん・・・ 
とにかく数十名が、今から自分の結婚式でも始まるような面持ちで待機しているのです。
そしてくどいくらい
「いいですか、あの(天下の)ジャック・二クラスですからね。くれぐれも失礼のないように。」
と何度も言われました。
そして二クラスは初日のスコアが悪く、練習場でたっぷりとボールを打ちたいので取材は遅れる、
と連絡が入ったのです。
さらに緊迫する役員・・・以下全員。
『え、機嫌悪いのかな…』と少し不安になりましたが、何故か思ったほど緊張感はなかったのでした。


30分ほど遅れて帝王は登場しました。
メーカーの役員…以下全員は、胸焼けするぐらい引きつった笑顔を振りまき、
握手をするだけで無二の親友になったような錯覚に紅潮していました。
「時間がないからね、15分で終わらせてちょーだい」とメーカーの担当者から耳打ちされ、
『やれやれ』と思いながらも取材を始めました。
第一印象は…すごくいいおじさん!
とっても気さくだし、ニコニコして明るいし、ワトソンに続いて二クラスも最高でした。
そして15分経ったところでメーカーの担当者が「ではこのへんで…」と言うと、毅然と
「いや、私の都合で遅れたんだ。約束どおりちゃんと30分の取材を受けよう」
と自ら言って継続してくれたのです。
カッコいいよ、ジャック! 私がもし女性だったら(パート2)、
こうなったら少し老けてるけど二クラスでもいいわ、と思ったことでしょう。

プロゴルファーの仕事はゴルフです。
トーナメントで数字を残せば勝者であり、評価は高まります。
しかし誰がそのトーナメントを支えているのか。
それは何をおいてもまずファンであり、そのファンとの橋渡しをしてくれているメディアがいかに重要か、
世界のトップゴルファー二人がしっかりと姿勢を提示してくれた二日間でした。
前編で書いたY選手も、そのような空気を米国PGAで感じて目からうろこが落ちたのでしょう。
日本のPGAも、そして選手達も、更に素晴らしい組織を目指して進化してくれることを、
遠く米国から心より期待しています。


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