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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 25 伝説のゴルファー列伝その2.グレナ・コレット

全てのプロゴルファーが出場を、そして勝利を夢見るマスターズ。
今年はザック・ジョンソンという今後が楽しみな新ヒーローが登場し、
ドラマ性に溢れた展開で世界中のファンを魅了して幕を閉じた。
その舞台であるオーガスタCCは、女性をクラブハウスに入れるか否かで、
数年前に論争が起きたことが記憶に新しい。
どうしても保守的な人間や考え方がまだまだ主流のゴルフ界、
現在でも女性ゴルファーに対して門戸が完全に開かれていると言い難いことは、
衆目の一致するところである。
しかし今から約80年も前の1930年前後、現在よりももっと保守的だったアメリカで、
“女性版ボビー・ジョーンズ”として多くのファンから愛された伝説の女性ゴルファー、
グレナ・コレットを今回は取り上げてみよう。

全米女子選手権に6回優勝、特にマッチプレーでは比類なき強さを発揮した彼女は、
劣悪な道具しか無かった時代であるにも拘らず、
女性としては信じられないドライバーの飛距離“307ヤード”を当時の記録に残している。
と言っても、彼女は決して筋骨隆々のマッスルガールでは無かった。
どちらかと言うと小柄でチャーミングな容姿のグレナは、
ハリウッドから映画女優への誘いを何度も受けたほどの美貌と気品を持ち、
ブロマイドが何万枚も売れたというからまさにゴルフ界のアイドル的存在だった。
そして毎日のようにラブレターが男性ファンから届き、
同時に女性ファンからも憧れ的存在として羨望の眼差しを受けていた。
それを実証するかのように、某雑誌で『恋人にしたい女性』(昔も今と同じような特集が組まれていたのですね!)では見事に1位に選ばれている。


1903年生まれ、ニューヨークの裕福な家に生まれた彼女は、
父親のゴルフ好きに影響を受けて14歳からクラブを握る。
前述のように、普段はどちらかというと優しい印象の女性だったが、
いったんクラブを握ると途端に集中力がみなぎった厳しい眼つきに変り、
1920年のシネコセット選手権に17歳で初優勝する。
そして22年には全米女子選手権に優勝、25年の同大会に2度目の優勝、
28年から30年にかけては同選手権で3連勝をあげている。
また国内で無敵となった彼女は勝負の舞台を海外に移し、
イギリスのナンバーワン女性ゴルファー、
ジョイス・ウエザレッドと対戦するために何度か渡英、
29年の全英選手権決勝戦で念願の対戦を交えた。
結果は残念ながらグレナの敗退に終わるが、
負けても腐ることなく勝者を絶賛した彼女の姿勢にジョイスは感動し、
「グレナは容姿も心も天使のような存在。
一緒にいる全ての人が幸せになる素晴らしい女性」と称え、
その後二人は無二の親友となったと伝えられている。

彼女が火を点けた米国女性のゴルフブームは急速に全米に拡がり、
1934年には女性のためのゴルフガイドブック、
“魅力的な女性ゴルファーになるために”
(ヘレン・マクドゥガル著)が発刊されて爆発的な売れ行きをあげ、
社会現象にまでなった。この本の内容は非常にユニークで面白く、
そして今でもゴルフを始める女性に読んで頂きたい項目が満載である。
その一部を以下に紹介してみよう。


『自立心に乏しく、決断力に欠けた人物ほどプレーが遅いものです。
自分のことしか考えないエゴこそが、他人から嫌われるスロープレイの原因です。
ゴルフでは他人を待たせてはいけません』 
『プレー中やクラブハウスでは、絶対に大声を上げてはいけません。
教養のある女性はそのようなことはしないものです』 
『服装はその人の内面を映す鏡です。品性の卑しい人は、
卑しい服装に気付きません。服装には細心の注意を払って、
上品さと優雅さを演出して下さい』 
『今、知的女性の3人に1人がゴルフを始めようとしていますが、
問題はその人柄が丸見えになること。
優雅なマナーこそがプレーの質以上に求められる重要な課題です』
『結局、ゴルフというゲームは、下品な人には似つかわしくないのです』

… なるほど。ごもっとも。これらは女性だけに限らず、男性にも当てはまるかもしれない。
そして現在でも、ゴルフを始める初心者に伝えてあげたいメッセージである。
またこの本を読んで、ゴルフの奥深さと優雅さに影響された当時の女性ゴルファー達が、
自分達の憧れの象徴であったグレナにその姿をだぶらせて、
更に彼女のファンになっていったことは容易に想像できる。
彼女が男性は勿論、いかに同性から人気が高かったかを物語るエピソードがある。
全米選手権で対戦し、彼女に敗れた選手のうち3人が、
何と自分の娘に“グレナ”という名前を付けているのである。
彼女のような人間に育って欲しい… 
そう思う女性の気持ちがいかに崇高なものか、母親でもある全ての女性はご納得頂けることだろう。

(資料の一部を日本経済新聞社刊・“ゴルフの達人”より転載しました)。

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