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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 26 伝説のゴルファー列伝その3.ラリー・スタックハウス

米国のゴルフ史に、その名を刻んできたゴルファーをご紹介するシリーズの3回目です。
但しボビー・ジョーンズやベン・ホーガン、そしてパーマーや二クラウスは今さら私が紹介するまでもなく、多くの文献や報道が細かく紹介済みなので、私はちょっと『通好み』のプレイヤーを選択しています。
その情報収集の為に色々な書籍に目を通しましたが、紹介されている選手はその殆どが、
過去の劣悪な道具しかない環境下で素晴らしいスコアや勝利を残した、敬服すべきゴルファー達でした。
しかし今回は、私が初めて彼の話(日本経済新聞社刊・ゴルフの達人)を読んだ時に、
本当に腹を抱えて大笑いしてしまったゴルファーをご紹介しましょう。
以下の話が全て実話であることを最初にお伝えしておきます。

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ラリー・スタックハウスは、70年代に米国で活躍したPGAゴルファーの一人である。
歴史に残るような華やかな記録は残っていないが、周りのプロ仲間に彼のことを尋ねると、
皆が口を揃えてラリーのとても紳士的な立ち振る舞いを褒め称えた。
またキャディー達も、いつも十分な謝礼を気前よく支払い、
プレー後はねぎらいの言葉を忘れない彼のことを、悪く言う者は一人も居なかった。
しかし必ずゴルファーもキャディーも、その後にひと言
「ただ… ちょっと自虐的すぎて、見ていても恐ろしい時が有るんだ」と付け加えた。
自虐的?早い話が“M”?…以下は多くのゴルファーやギャラリーが実際に目にした光景である。


ゴルフは自然と闘い、そして自分と闘う。
失敗は他の誰かが原因ではなく、全て自分の責任である。
だから健全なゴルファーなら、プロでもアマでも自らを叱責する場面はよく目にする。
しかしラリーの場合は、実際に自分の体の一部に懲罰を与え、しかもその内容が半端で無かったのである。
その日もラリーは大事な場面でひどいスライスを打ってしまった。
「あーあ…」と嘆くギャラリーを横目に、ラリーは悠然と林の方へ歩いていき、
大きな木に自分の右手を何回も打ちつけ始めた。
「この野郎!肝心な時にいつもミスしやがって!!」と怒鳴りながら何回も続けた。
呆然と口を半開きにして見守る、ギャラリーとキャディー。

やっと右手を打ちつけるのを終えて、ハアハアと息も荒く、
皮がめくれてうっすらと血が滲んだ右手を見つめるラリー。
しかし『やっと終わった』と安心したキャディーの横で、今度は左手を打ちつけ始めたのだ。
「お前も同罪だ!この野郎!何度言ったら分るんだ!!能無しめ!」と何回も激しく打ち続け、
木の幹には赤い血がこびりつき始めた。「やめて下さい!」とキャディーが無理矢理止めると、
少し冷静になり「さあ、行こうか…」といつもの紳士的なラリーに戻っていた。

またある時はバンカーから1回でボールが出ず、同じ場所にコロコロと転がり落ちてきたボールをジーッと見ると、
突然「何をやってるんだァ!!」と叫び、自分で自分のアゴに強烈なアッパーカットを入れた。
そして見事にカウンター気味に入ったパンチは彼を気絶させ、
そのままバンカーの中に倒れてしまい、
トーナメントの真っ最中にも拘らず救急車で病院へ一直線となったのだ。
凄まじいパンチ力である。ボクサーになってもきっと大成したに違いない。


グリーン上では更にその激しさに拍車がかかった。
ある時3パットをした直後、キャディーが嫌な予感をした時はすでに遅く、ラリーは
「このろくでなしがァ!!」と叫ぶと、自分のパターでスネを何度も激しく叩き付けた。
あまりに衝撃が強かったために彼の足は見事に骨折し、
そのグリーン上から一歩も歩く事ができずに倒れてしまい、
今や常連サンとなった救急車で病院へ搬送されたのである。

しかし特筆すべきは、ラリーは絶対に他人に八つ当たりをしなかったことで、
そこを気に入って応援するファンも多かったらしい。一説では、
切れるラリーを見るのが楽しみで、コースへ駆けつけるギャラリーも沢山居たとのことだが… 
そして彼の生涯で最も悲惨な日が訪れた。
その日はショットもパットも最悪で、彼の怒りは頂点に達していた。
キャディーが恐る恐るラリーの顔を覗く。
振り返った彼は爽やかに微笑み、
「今日も一日ご苦労様でした」とキャディーに報酬を与えゴルフ場を去ったのだ。
「今日は大丈夫のようだな」と安心してホッと胸を撫で下ろすキャディー。

しかしラリーは、一人で運転する帰りの車中からふと
“バラ園へようこそ!”という看板を見つけると、急にUターンして中に入っていった。
そしてまるで、プレー後のシャワーを浴びるかのように上半身裸になると、
「この馬鹿野郎!馬鹿野郎!!」とトゲだらけのバラで自分の体を打ち始めた。
数分後、血まみれになった不気味な男は、まだ満足できなかったようで、
バラの最も密集する花壇にジャンプ・インして何十回と転げ回ったのだ。
そしてふと我に戻ったラリーは、病院のベッドに横たわっており、
その後2ヶ月間の入院を余儀なくされた。
ゴルフ史上、最も自分に厳しかったゴルファー、ラリー・スタックハウス。
もしくはただの変態ゴルファーか??