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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 35 T.W.とR.I.

今年のPGAツアーもほぼ終幕を迎え、
九月末現在で公式戦は残すところプレジデントカップのみとなり、
例年以上に数多くの筋書きの無いドラマで、我々を存分に楽しませてくれました。
最も強烈な印象に残ったのは、やはり終盤五試合のタイガー・ウッズ。その五試合は、
メジャーを含みフェデックスカップやPGAツアー選手権といった大規模な試合であったにも拘らず、
タイガーは優勝が四試合、2位が一試合という好成績を挙げました。
私もPGAの試合を何十年と見てきましたが、短期間とはいえ出場した試合の80%が優勝、
2位以内は100%という結果には驚かされます。
失礼ながら、他の選手たちは昼寝でもしていたのか?という印象です。

プロゴルファーの勲章である、年間賞金王、プレイヤー・オブ・ザ・イヤー、
バードン・トロフィー(年間平均スコア1位)の三冠も達成、
獲得した総賞金額も凄い数字ですが、
最も印象的だったのはPGAツアー選手権に優勝して同時にフェデックスカップの初代王者に輝いた日で、
約1100万ドルを一日で手にした計算になります。
世界のあらゆるプロスポーツにおいて、
一日で一千万ドル以上稼ぐ選手は彼以外に存在しないでしょう。
PGA関係者を始め他のプロゴルファー達、スポンサーやメディアの業界人、
何よりも一般のゴルフファンにとってタイガーが一体どこまで飛翔するのか、
その高弾道のドライバーショットのように、
唖然と口を開いて眺めていることしか取るべき態度が見つかりません。

しかし誤解を恐れずに申し上げますと、私はタイガー・ウッズがあまり好きではありません。
その優れた技術力が世界一であり、
その研ぎ澄まされた精神力が他の誰にも真似できないであろう、
高い次元にあることには何の異論もありません。
またそれらが単なる才能だけによるものでなく、
今は亡き父親と二人三脚で築き上げた地道な練習の賜物であることは、
心より敬服に値するものと考えます。
ただ私は、バーディパットを決めた時にグリーンで大げさに右手を突き上げたり、
ミスショットをした時にクラブを地面に叩きつけたりする態度が、
どうしても好きになれないのです。
もしくは私の好きなゴルフはそこには存在しません。

私が幼い頃に最初に見た外国人ゴルファーはジャック・ニクラウスで、
ゴルフに夢中になり始めた頃に“新帝王”と言われたトッププレイヤーは、トム・ワトソンでした。
私が覚えている限り、彼らは一度もそのような態度はしなかったと思います。
もちろんバーディを取った時は誰よりも嬉しかったでしょうが、軽く手を上げて笑顔を振りまく。
ミスした時は確かに少し怪訝な態度と険悪な表情になりますが、すぐに普通の表情に戻っていました。
日本でその二人にインタビューしたことも有り(VOL8&9にて掲載)、
プライベートではその気さくな人柄にも接しましたが、
いったんプレーに入ると自分がメディアにどう映っているか、
どのような影響をゴルフ界に与えるかを深く認識していたのではないでしょうか。

さて現在の日本で最も人気ある16歳、石川遼君。
ギネスブックにも載った、プロの試合での最年少勝利を達成した際は、
多くの人が“フロック”だと思ったことでしょう。
もちろん15歳(当時)の少年が、毎試合のようにプロに勝てるはずがありません。
しかしその後も幾つかのプロの試合に出場(フジサンケイ、東海クラシック)し、
プレー後のインタビューを何度か聞きましたが、
その発言と態度は一日で一千万ドル稼ぐタイガーよりも、
よほど日本のゴルフ界に好影響を与えると実感させます。
自分の16歳時を振り返ると、
それは芥川賞作品と小学生の夏休み絵日記ぐらいの表現力の差があると思わせます。

ゴルフに全く興味のなかったご婦人達を振り返らせ、
スポーツ新聞ではどのプロゴルファーよりも大きく取り上げられ、
出場した試合の観客数は全て前年の倍以上を動員しました。
そしてプレッシャーに潰されることなく、
注目されたほうが嬉しい旨の発言にも嫌味がなく、
漫画の世界でも居ないだろうと思わせるほどのスター性を発揮しています。
以前もこのコラムで、若いうちに花が開ききってしまい、
その後鳴かず飛ばずとなった悪い例のゴルファーの轍を踏まないことを願う、
といったコメントを書きました。
しかしもう既に日本の男子ゴルフを充分に牽引している存在、と言っても過言ではないでしょう。

9月末に出場した東海クラシックでは、憧れのビジェガス選手と同組で回り、
自ら積極的に英語で話しかけるシーンがテレビで紹介されましたが、
出来過ぎでは?と思わせるほどの好感度アップの演出でした。
当初は誰もが「いつか壁に当たるだろう。
その時に、その爽やかさがどこまで維持できるか」という、
ちょっと意地悪な視線を投げかけていましたが、
どうやらこれは本物のスター登場のようです。
今後は「批判という名の嫉妬、指導という名の潰し」からいかに脱するかでしょう。
プロの試合で迷彩色のパンツでプレーしたことに、一部のJPGA幹部から批判の声が出たそうです。
まあ個人的には「別にいいんじゃないの?」と思いますが、
何かと口やかましい先輩達を極力怒らせないことも重要でしょう。

タイガー・ウッズと石川遼。
世界のゴルフ界をリードして、驚異的な実績を挙げた成功者である前者。
そしてまだ車の運転もできず、人間としても発展途上の青き蕾(つぼみ)である後者。
多くのゴルフ関係者は、その存在の差は比べることさえ無意味であると思うことでしょう。
ただ少なくとも私は、石川君が見せてくれるゴルフのほうが好ましく、
将来のゴルフ界に役立つ存在となるのでは?と感じています。
そしてゴルフだけでなく人間的にも更に成長し、
一日に一千万ドルは稼げないかもしれませんが、賞金だけではない貴重なメッセージを、
世界のゴルフシーンに投げかけてくれる日が来ることを心より期待しています。