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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

Vol. 37 禁“高反発”法(前編)

あと2カ月ほどで2008年を迎えます。
大統領選挙に北京オリンピックとイベント満載の年になりそうですが
ゴルフ業界の最大の話題はやはり来年より施行される“SLEルール”でしょう。
多くの方が既にご存知でしょうが、08年1月1日より
ドライバーヘッドの反発係数基準が0.83以上の場合は不適合クラブとなり使用できません。
適用地域は洋の東西を問わず、アメリカ、日本、ヨーロッパ…全世界がその対象です。
しかも驚く無かれ、プロの試合やアマの公式戦はまだしも
一般ゴルファーがプライベートでラウンドする時も全て使用禁止となるのです。
でもどうやって違反を見つけるのでしょうか?
おそらく各個人で判断して自己規制してくれ、と。
ゴルフはそういうスポーツなのだから、という論理なのでしょうか。

世界のゴルフルールと用具を取り仕切るR&Aが規制すると言った以上
当然それに従わねばなりません。
でも本音を言うと、私のように新しいクラブをさほど頻繁に買い換えないゴルファーは
いきなり自分のクラブが禁止だと言われても非常に困るのです。
何よりも自分のドライバーが適合なのか不適合なのか…実は知りません。
違う言い方をするならば、買った時の記憶が残っていません。
おそらく多くのアマチュアゴルファーは「ルール改訂は知っているけど
自分のクラブは…大丈夫じゃないの?」と確かめようとせず
または確かめても「そんなの分かるはずがない」とそのまま継続使用するのではないでしょうか。
“クラブが15本入っている”といった明らかにわかるペナルティーとは質が違います。
そしてコース側も大事なお客の気分を損ねないように
その件には目をそらすであろう態度が容易に想像できます。

皆が何か変だなと思いながらも仕方なく施行されている…
これはまさに1920年から13年間も続いたアメリカの禁酒法にそっくりではないですか!
史料によると、当時のニューヨークでは禁酒法により逆に闇のバーが爆発的に増え
また自家製の不良酒類で命を落とした人の数は何千人にも上ったと言われています。
そして巨額の利益を得たのは、伝説のアル・カポネを始めとするギャング達でした。
では今回のコラムは、禁酒法にこのルール改訂を当てはめ
禁“高反発”法が施行中のロサンゼルスを舞台にした
フィクション・ゴルフドラマを作ってみます…


「ヘイ、トム!元気か?」
ゴルフショップを訪れたジェリーは幼馴染のトムに満面の笑みで声をかけ
どちらが客なのか分らないほどの低姿勢だった。
「やあジェリー、先月のトーナメントはどうだった?」
ショップオーナーのトムは伝票を整理しながらカウンター越しに話しかけた。
「いやあ、すごく調子が悪くてさ…やっぱりクラブが合ってないみたいだ。」
といつもクラブのせいにするジェリーは
店内には他に人が居ないか左右を確かめてから小声で話しかけた。
「トム、聞いたよ。お前さんは例のクラブを売ってくれるんだって?」
いたずら好きの子供のようなジェリーの上目遣いの視線を無視して
トムは「え、何のことだ?」と返事した。
しかし胸中では『また来たか…今週はもう3人目だ』とちょっとうんざりしており
そろそろ“闇クラブ販売”も控えなければいけないな、と考えていた。
噂ではR&Aエージェントがおとり捜査を仕掛けて不正が発覚し
廃業に追い込まれたショップ経営者がLAだけで5人も出たと聞いている。

「頼むよ。売ってくれよ。実は仕事仲間のトーナメントが来週あって、何とか勝ちたいんだ。
あのクラブだと70ヤードはプラスで飛ぶらしいじゃないか。」
実際にはせいぜい10ヤードまでの伸びだが、噂が独り歩きして大げさになっていた。
「トム、俺たちは子供の頃から親友だろ?」懇願するジェリーを無視して
トムは来週に迫る娘の誕生日のことを考えていた。
新しい携帯電話をプレゼントする約束をしたが、財布の中は空っぽだった。
「分った。売るよ。但し俺はもう今回で闇クラブ販売を止める。
だから二度と、そして誰にもこの事は言わないでくれ。廃業だけはご免だ。」
と真剣な表情のトムに
「そうこなくっちゃ!モチロン誰にも言うはずが無いよ。恩にきるぜ!」
そしてトムは倉庫の奥から一本のドライバーを出してきてジェリーに渡した。

「グレートショット!ジェリー、すごく調子いいな!」
次の週末、業界内のトーナメントに出たジェリーはナイスドライブを連発し
いつもは飛距離で負けているスティーブを全てオーバードライブしていた。
「それにしてもよく飛ぶな。どこのドライバーを使ってるんだ?」
と怪しむスティーブがバッグを覗いた。
「テ、テイラーメイドだよ」と、一見は普通のクラブと分らないように作られてはいるが
実は違反の高反発クラブをスティーブに触られ、ジェリーは汗が一気に背中に噴き出した。
「いや、まさか高反発を使ってるんじゃないかと思ってさ。
それだけは有り得ないよね。ごめん、疑ったりして。」
「いやいや、気にしてないよ。ははは」とジェリーの態度はかなり怪しかったが
裏腹にショットは絶好調で更に飛距離を伸ばしていた。
17番ホールを終えて、ナイスドライブの連続でアイアンが楽になったジェリーは
スコアも自己最高ペース、このまま終えると今日のトーナメントは自分が優勝だと確信していた。
思わずゆるむ口元。
その時、18番ティーグラウンドの横でメキシカンのオヤジと一緒に芝刈りをしていた
作業員の一人が、不意に麦わら帽子を取ってこちらに向って歩いてきた。

とまどう4人にその男は、
「私はR&Aのエージェントです。違反クラブのチェックを行います。」
と言いながら正規エージェントであるIDを全員に見せた。
「へー、君が噂のエージェントか!初めて見たよ!」と喜ぶスティーブの横で
ジェリーは一瞬にして顔から血の気が引き、指先が小刻みに震え出した。
男は慣れた口調で「今から全員のドライバーにセンサーを当てます。
針が赤のゾーンに入ったら違反クラブです。
違反者は全国のゴルフコースに写真が送付されて1年間ゴルフ禁止
売ったショップは3年間の販売ライセンスはく奪です。」
と語り、早速作業を始めている。
ジェリーは既に全てをあきらめて遠い空を見上げていた。
自分はこれで当分はゴルフができない。
いや、高反発を使っていた噂が流れたら、一生誰も俺とはプレーしてくれない。
そして友達のトムは廃業だ。俺のせいで。すまん、トム、許してくれ…
既に3人のクラブのチェックを終えたエージェントは
最後にジェリーのドライバーを手に持った。

(以下後編に続く)

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