アメリカにおける“クールジャパン”の今

アニメや日本食によって世界に広がった現象“クールジャパン” は、2013年に設立された「クールジャパン機構」によって、ポップカルチャー、食、伝統工芸、おもてなし、ファッションなど、幅広い分野での海外需要拡大のスローガンとして、新しい意味合いを持つようになりました。時代によって変化しているクール ジャパンですが、私たちが住むアメリカにおい ては、どういった形で広がり受け入れられているのでしょうか。現在、アメリカでクールジャパン拡大に尽力する企業、団体の取り組みをご紹介します。
(2015年8月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)


アメリカにおける“クールジャパン”

アニメや食材から自然発生したクールジャパン

近年、インターネットやテレビなどで“クールジャパン”という言葉を、頻繁に聞くようになりました。まず、クールジャパンが生まれた背景を紐解いてみましょう。
 
『知恵蔵2015』 (朝日新聞出版)によると、クールジャパンとは「日本独自の文化が海外で評価を受けている現象、またはその日本文化を指す言葉」とあります。1980年代後半に世界各地で放映されたテレビアニメ『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』を筆頭に、『ポケットモンスター』や『NARUTO』などのアニメや漫画は、まさにクールジャパンの土台を作った作品ですが、その後、ファッションや食材にいたるまで、広範囲にわたる文化を含む言葉になりました。
 
そして、2010年に経済産業省製造産業局の 「クールジャパン室」設置により、それに新しい意味合いが加わりました。同省は、日本の経済の活性化を目指し、従来の自動車や家電・電子機器産業にプラスして、ポップカルチャーを中心とした文化産業の海外進出支援などを行う「クールジャパン戦略」を立て、以来クールジャパンは、日本の経済成長を促すスローガン的な用語としての意味も持つようになりました。


海外需要拡大政策「クールジャパン機構」設立

政策として始まったクールジャパンの内容は、多岐にわたりました。2013年1月に、第2次安倍内閣が設置した日本経済本部がまとめた「日本経済再生に向けた緊急経済対策」によると、外貨を稼ぐ手法として、海外展開戦略を成長戦略の軸に据えて、経済産業省をはじめ、総務省、国土交通省など各省がクールジャパン推進のために、施策を打ち出しています。クールジャパン政策の狙いは、アニメやドラマ、音楽に代表される日本のコンテンツから、ファッション、日本食、住まいの“衣食住”まで、「日本の魅力」を軸として海外に進出し、日本企業の活躍や雇用を生み出すことにあります。
 
その経緯で2013年11月に誕生したのが「クールジャパン機構 (株式会社海外需要開拓支援機構:Cool Japan Funds, Inc.)」でした。クールジャパン機構は、クールジャパンを体現する日本企業が海外での需要創出のため、投資資金を供給する官民ファンドとして創設されたのです。
 
これまで資金不足、拠点不足、戦略不足によって、民間ではなかなか成し遂げることができなかった海外進出を出資面で支援し、現地で利益を生むためのプラットフォーム構築や、流通網の設備などを展開していくことを狙いとしています。
 
2013年度当初予算では500億円が確保され、設立時点で官民合わせて、375億円が出資されましたが、2015年3月末時点での出資金は406億円に上り、その内訳は政府出資が300億円、民間出資が106億円となっています。出資額は、1件あたり数億から多いところで、100億円以上に上り、投資案件によって異なるもののクールジャパン機構と民間の出資額は、それぞれ半分程度。機構の存続期間は約20年としており、中長期的な視点で投資回収を行います。
 
経済産業省商務情報政策局の発表によれば、現在15年4月(27日時点12件の投資案件を決定しており、いずれも日本の法令に基づき設立された企業や、現地合併会社、日本国内の親会社の子会社 (現地法人)などが対象になっています。


アメリカにおけるクールジャパン第2章スタート

アメリカにおけるクールジャパンは、古くは自動車から始まり、家電、アニメ、そして寿司をきっかけとした日本食ブームなどで広がりました。この自然発生的なクールジャパンを第1章とすると、現在 3つの切り口からクールジャパン第2章が始まろうとしています。
 
1.クールジャパン政策による広がり
2.文化交流面での広がり
3.民間企業からの広がり

「クールジャパン政策による広がり」には、クールジャパン機構や、日本のコンテンツの海外展開を支援する補助金制度J-LOP+があります。またクールジャパン機構は、アメリカでの需要開拓のために、2014年3月にジェトロ(Japan External Trade Organization)と業務連携しています。日本企業の海外ビジネス支援に必要なノウハウとネットワークを持つジェトロ・ロサンゼルスは、現地でのテストマーケティング、商談会、展示会や市場動向、貿易・投資の規制、関税などに関する調査・情報面でサポートを行っています。
 
クールジャパン機構によると、対象国にアメリカが含まれる事業は6件で、このなかには15年4月に投資が決定したGreen Tea World USAがあります。カリフォルニア州アーバイン市に拠点を持つ同社は、長崎県の企業が中心となる企業連合が設立した株式会社の子会社で、ほかの投資案件と異なり、日本の地域産品販売プラットフォーム構築の先駆者として、日本国内の中小企業からも大きな期待を寄せられています。
 
クールジャパン機構が、投資ファンドとして民間のビジネス支援を行っているのに対し、長年文化交流において、クールジャパンを実践しているのが国際交流基金ロサンゼルス日本文化センターです。音楽、美術、科学技術など幅広い分野で日本文化を紹介する一方で、時代に合った伝え方で「文化交流面での広がり」 に努めています。そして「民間からの広がり」には、毎年ロサンゼルスで開催されているアニメコンベンション「アニメエキスポ」のほか、日本の伝統工芸を独自のアプローチで展開しようとしている企業があります。
 
下記では、これら3つの切り口から、“アメリカにおけるクールジャパンの今”をサポートするジェトロ・ロサンゼルスや国際交流基金ロサンゼルス日本文化センターの取り組みと、アニメ、食、伝統技術などの分野から日本文化をアメリカに広めようとしているNPO団体や民間企業の活動や意気込み、そして今後の展望などについて具体的に紹介します。


ジェトロ・ロサンゼルス:クールジャパン機構と連携で進出企業をビジネス面で支援

ジェトロ・ロサンゼルス

日本のコンテンツ普及に貢献したハリウッド関係者を表彰する「クールジャパンアワード」。左より在LA日本国堀之内秀久総領事、ダグ・ライマン監督、原作著者の桜坂洋さん(2014年9月)

海外との貿易や投資促進を通して、日本の経済および社会の発展を目的とするJETRO(Japan External Trade Organization)。1958年に設立されたジェトロ・ロサンゼルスは、カリフォルニアをはじめ、隣接する数州とハワイを管轄としている。2014年3月13日から、株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)と業務連携し、アメリカに進出する日本企業の支援ほか、さまざまな活動を行っている。


クールジャパン機構と連携で進出企業をサポート

クールジャパン機構の投資が決定しているTokyo Otaku Mode。Facebook上では英語で1700万人の登録者に情報を発信している

2014年3月に、クールジャパン機構と業務連携し、日本のコンテンツや日本食などの「日本の魅力 (クールジャパン)」を通じて、産業の育成や海外需要開拓に取り組んでいます。
 
クールジャパン機構の投資類型には、大きくわけて 「メディア・コンテンツ」「食・サービス」「ファッション・ライフスタイル」がありますが、アメリカでは先の2つが大きな市場となっています。「ファッション・ライフスタイル」は、アジアを対象したものが多く、アメリカではまだ投資案件がありません。しかし「メディア・コンテンツ」では、Facebook上で1700万人の登録者数を持つTokyo Otaku Modeや、そしてバンダイナムコ、ADK、アニプレックスの3社が共同で設立した (株)アニメコンソーシアムなどがあり、対象国にアメリカが含まれる案件として、すでに4事業に投資が決定しています。
 
「メディア・コンテンツ」 においては、アメリカでの市場展開のためのプラットフォーム構築や、コンテンツの対外発信強化などを進めると同時に、有名コンテンツの正規品流通のインフラ作りや、海賊版や模倣品の排除も目的としています。ことにアニメに関しては、早くから自然発生的に市場が広がっていったものの、インターネットでのストリーミングが横行し、売り上げに繋がらないケースが多々あります。日本のコンテンツが評価されるのは良いことですが、日本にちゃんと利益をもたらし、その利益で次の作品が出来るような良い流れを作ろうというのが狙いです。
 
「食・サービス」で、もっとも注目されているのは、Green Tea World USA, Inc.です(詳細は後述)。今後、全米で「日本茶カフェ」を展開する予定ですが、アメリカ現地法人で初めて投資が決定した企業第1号であること、地域創生モデルであること、中小企業案件であること、さらに抹茶というアメリカの市場で十分通用する食品で展開していくとあって、国内外から多く関心を寄せられています。
 
アメリカの日本食市場は大きいのですが、そのほとんどが非日系人経営によるレストランで、営業権の問題や食材調達のリスクなどで、外食企業の進出がとても遅れています。今後ももっと伸びる市場だと思いますし、しっかりとしたプロジェクトのアイデアと戦略があればジェトロ・ロサンゼルスでも積極的にサポートしていきたいと考えています。


ハリウッドを魅了する日本の原作コンテンツ

【取材協力】
JETRO Los Angeles
次長 川渕英雄さん
Web: www.jetro.org

ジェトロ・ロサンゼルスは、日本企業十数社と共に、オールジャパンとして10年近く継続して国際映画見本市(AFM)に参加し、日本製の映像作品の販売を行っております。また、「アニメエキスポ」と共催で商談会も実施しました。
 
さらに、ハリウッド作品はアメリカのみならずアジアなどの市場からも受け入れやすいことから、昨年から、日本原作で「メイド・イン・USA」の作品の普及のサポートを開始しました。
 
その一環で、日本の映画などのコンテンツ普及に貢献したハリウッド関係者を表彰する式典 「クールジャパン・アワード」を開催し、昨年は桜坂洋氏のライトノベル『All You Need Is Kill』が原作となった映画 『Edge of Tomorrow』と『Godzilla』の』 2作品が表彰され、主演俳優のトム・クルーズ氏やダグ・イマン監督が賞を授与れました。このような普及活動の成果として、今秋放映予定のテレビドラマ「Heroes Reborn」に日本人3人がメインキャストとして起用されています。映画をはじめ、ライトノベル、本、漫画などのコンテンツは、物販など二次市場も含め、これから日本に大きな利益を還元する可能性が高いと思います。
 
今年はこれからの日本の原作をアメリカの制作会社に紹介するマッチングイベントを企画しております。


国際交流基金:30年以上にわたり、文化交流で独自のクールジャパンを実践

国際交流基金・ロサンゼルス日本文化センター

新潟・佐渡の尾畑酒造五代目蔵元・尾畑 留美子さんを招いたレクチャー。その後、酒ソムリエ・松本 祐司さんによるセミナーと尾畑酒造「真野鶴大吟醸」の試飲会が行われた(2015年6月)

1972年に外務省所管の特殊法人として設立された国際交流基金(The Japan Foundation/本部:東京都)は、総合的に国際文化交流を実施する専門機関。2003年に独立行政法人となり、現在海外21カ国に22の拠点を持つ。1983年に設立されたロサンゼルス日本文化センターは「文化芸術交流」「日本語教育」「日本研究・知的交流」の3つを主要分野とし、さまざまな活動を行っている。


多分野で”共感“を生み出し日本の「新しい友人」作りへ

今後、二世ウィークでの「大田楽」パフォーマンスや、狂言方和泉流能楽師の野村万蔵さんによる狂言公演アメリカ初のシネマ歌舞伎上映など、さまざまなイベントを予定している。

国際交流基金ロサンゼルス日本文化センター(JFLA:The Japan Foundation, Los Angeles)は1983年から 「文化芸術交流」「日本語教育」「日本研究・知的交流」を3本柱として活動しています。今年に入って、LACMA(The Los Angeles County Museum of Art) で開催された「樂・茶碗の中の宇宙」展や精進料理教室「赤坂寺庵」の僧侶による精進料理レクチャーなどを開催しましたが、歴史や健康といった誰もが興味を持ちやすい切り口で見せるように努め、その結果、幅広い層にご来場いただき非常に盛況でした。
 
そもそも文化は、一方的に発信するだけでは伝わりません。まずは受け入れる側の“共感”を得ることが一番大なんですね。6月に開催したレクチャーシリーズでは、新潟の佐渡で日本酒を造る五代目蔵元を招いたのですが、講演では蔵元になるまでの経緯や、経営者としての考え方などを語ってもらいました。海外で友達ができる時って、その国の文化に精通してるとか、言語ができるとかではなく、その人を知るうちに何かしら“共感”を覚えたということがきっかけであることが多いのではないでしょうか。日本をより身近に感じてもらうことで海外の 「新しい友人」 を増やしていくのが、我々の理念であり、組織の存在理由だと考えています。
 
ここ20年で、アメリカの日本文化に対する捉え方は随分変わってきました。日本食やアニメなどが広く浸透した一方で、日本食でもSushiやRamenと細分化されて認識が深まっています。さらに、日本のこと全般には詳しくなくても、例えばファッションなど、一つの分野に関してある程度の知識を持つ人がすごく増えてきているので、伝え方を工夫する必要があります。イベントも、今はテーマを絞ったり切り口を考えないとなかなか興味を持ってもらえません。「新しい友人」作りには、間口を広げることも大事ですが、狭く深く掘り下げることで、新たな“共感”につなげていく。一度きりで終わるのではなく、いかに次の興味に結びつけられるかが重要ですから。


変化を恐れず交流に取り組む“クールジャパン”を目指して

【取材協力】
The Japan Foundation , Los Angeles
所長 原秀樹さん
Web: www.jflalc.org

長年、イベントや日本語教育の場を通じて日本文化を伝えていますが、ある意味、我々がやっていることは全て“クールジャパン”だと思っています。もちろんこれには、政治的・ビジネス的な意味合いはありません。もとより文化を伝える側が、純粋にそれをクールだと思っていなければ続けられないし、相手にも“共感”してもらえないはず。ただし文化は常に変化するものですから、クールと慢心して止まってしまえばそこで終わり。アメリカに渡った寿司から、市場のニーズに合ったカリフォルニアロールが生まれ、今や日本でも受け入れられていることを考えてみてください。アメリカで形を変えていく文化もあるかもしれないし、それはそれでクール。従来の概念にとらわれず、変化を受け入れられるような柔軟性もあって初めて、真のクールジャパンと言えるのかもしれません。伝統や歴史を大切にしつつ、決して新しい変化を恐れず、日本が海外で国際交流に取り組んでいく姿勢を“クール”だと思ってもらえれば良いなと思います。


アニメ:ニッチイベントから、市場調査やコンテンツ提供の場に変貌

日本アニメーション振興会

7月2日~5日に開催された「第24回アニメエキスポ」。4日間の来場者数は26万人を超え大盛況を博した(ロサンゼルス・コンベンションセンター)

日本のアニメーションとアニメ文化に関連 している芸術・事柄を促進するために活動する組織。ロサンゼルスで開催される北米最大アニメコンベンション「アニメエキスポ」をはじめ、サンディエゴのアニメ・マンガイベント「Anime Conji」、国際会議「プロジェクトアニメ」など、さまざまなイベントやプロジェクトを手掛けている。


ビジネスチャンスをつかめ!アニメエキスポで市場調査

1992年にスタートしたアニメエキスポは、今年で24回目を迎え、参加登録実数は9万500人。4日間の延べ来場者数は26万700人となりました。来場者数はここ3年で右肩上がりで、昨年と比べても延べ来場者数は、18%増、つまり約5万人も増えたことになります。これまでのデータによると、男性は53%、女性は47%、年齢は18歳~24歳が最も多く、全体の56%を占めています。もともとアニメエキスポは、UCバークレーのアニメ研究会が始めたイベントで、コアなファンを中心に大きくなってきましたが、今や単純にアニメや漫画が好きな一般客が楽しめるマスイベントに変貌してきました。人気があるのは『One Piece』や『進撃の巨人』 といった単純明快なストーリーのビッグタイトル。日本で人気の萌え系はニッチですが、それを好むファンもいます。アニメは名実ともに”クールジャパン“の先駆けとも言えますが、その市場は大きく変わってきています。以前はパッケージと呼ばれるハード(DVD)が主流だったものの、今は違法ストリーミング対策として、大手配信サイトなどで日米同時に映像配信をする会社がほとんど。人気が出てから吹き替え版を作るパターンが多いですね。
 
また、ライセンシング供与だけでは利益は頭打ちなので、コンベンションを通じてマーケティングを行い、新たなビジネティングを行い、新たなビジネスチャンスを模索する企業が多くなってきています。実際、ここ数年は日本の制作会社によるコンベンション参加が増えており、ブース出店はもちろん、監督や声優が参加するパネルディスカッションやゲスト招へいなどに注力しています。アメリカ人は一方通行ではなく、インタラクティブなPRを好むため、積極的に参加すればするほど、会社や作品の認知度を高められるほか、物販でも大きな成果を上げているのです。アニメエキスポの来場者アンケートでも、来場の一番の目的は「物販」で、日本でしか手に入らないような商品は、付加価値がついて人気を博しています。
 
さらに近年は、映画やドラマ用のコンテンツを探す目的で来場するハリウッド関係者の姿も多くなりました。それを受けて、私たちも興味のある方に、ビジネスマッチングの機会を提供しています。


政策の後押しで北米進出企業は増加の一途

【取材協力】
Society for the Promotion of Japanese Animation
事業開発ディレクター
松田 あずささん
Web: www.spja.org

クールジャパン政策も手伝って、日本からアメリカに進出しようという企業や会社は着実に増えています。今年3月に東京で開催されたJ‐LOP+主催の「J‐LOP+海外イベント合同説明会」で、北米最大のアニメコンベンション主催者として、イベントの説明会と相談会に参加したのですが、大きな反響がありました。実際、今年のアニメエキスポには、日本からの視察団がたくさん訪れていましたね。
 
アニメは非常に大きな市場ですが、海賊版など取り組まなければならない課題はまだまだあります。今後、進出する企業に求められるのは、正規市場を構築して、日本にきちんとお金を還元できるシステムを作り上げること。そのためには、アメリカを拠点とする企業や団体の協力は欠かせません。いずれは日本の現地法人以外でも、クールジャパン機構の投資を受けられるようになればいいと思っています。


日本茶:全米で日本茶カフェ展開・地域産品販売プラットフォーム構築へ

Green Tea World USA

全米規模で展開予定の日本茶カフェ「Green Tea Terrace」(仮)は、2015年)内を目途に第1号店出店を予定。日本で記者会見を行うGreen Tea World USA 前田拓チェアマン(右)と濵本磨 毅穂(まきほ)長崎県貿易公社社長・長崎県副知事

日本茶の輸出事業を手掛ける株式会社マエタク(前田拓社長)と、長崎県貿易公社、文明堂総本店・白山陶器などを中心とする企業連合「グリーンティー・ワールド・ホールディングス株式会社(長崎県長崎市)」のアメリカ現地法人。ロサンゼルス を拠点に、日本茶カフェ事業を全米で展開予定。株式会社マエタクは、アメリカで30年以上にわたり日本茶ビジネスの実績を持つMaeda-enの親会社にあたる。


全米規模で日本茶カフェを展開・今後10年で50店舗を目指す

Maeda-enの新商品「Macha Booster」。抹茶は日本茶カ フェで主力商品として期待 されている

Green Tea World USAは、日本茶の輸出事業を行うマエタクと、長崎県の企業が中心となる企業連合のアメリカ現地法人です。クールジャパン機構の12件目の投資案件として、今後、全米規模で日本茶カフェを展開し、日本産の茶葉を使った抹茶エスプレッソやキャラメルほうじラテなど多彩なドリンクに加え、サイドメニューにはカステラ、そして茶器には波佐見焼を使用するなど、長崎県の地域産品を扱っていきます。出店エリアは、まず2015年内にロサンゼルスで第1号店をオープンし、これから10年間で50店舗展開を目指しています。
 
私は、1984年にMaeda-enを設立し、以来日本茶ビジネスを展開してきました。アメリカのお茶消費市場は、グリーンティー、紅茶、ウーロン茶等を含めると1兆円規模に成長しています。なかでもグリーンティーは、現在米系スーパーでも販売されるほど普及しているのですが、意外にも質の高い“本物”を気軽に楽しめる場がないのが実情です。日本茶は、1856年に幕末の長崎から輸出されて世界に広まったにもかかわらず、外国産茶葉の台頭や志向性の多様化などで、産地で放棄茶畑農家が増えている現状に、危機感を感じていました。
 
口の肥えてきたアメリカ市場に”本物“のおいしさを伝えるのは日本茶メーカーとしての使命。そんな思いを実現すべく、このたび、日本茶カフェという業態で本格的に始動したわけです。
 
ターゲット層の中心には、健康志向が高くライフスタイルにも質を追求するミレニアル世代を置き、茶葉の選定や店舗でのお茶の淹れ方にこだわり、Made in Japanの良さを認知してもらえるブランド作りに励みたいと思っています。そこで主力となるのが抹茶です。実はMaeda-enは、アメリカで初めて日本産の抹茶を使ったアイスクリームを製造販売して、市場を拡大した中心的立場から、抹茶の人気が市場に浸透しつつあるのを実感しています。抹茶は味にもインパクトがあり、コーヒーに代わる飲み物としても十分。抹茶をきっかけに、煎茶や玉露など、多種多様な日本茶について興味を持ってもらえればと思います。


海外展開を目指す地域産品の販売プラットフォーム構築へ

【取材協力】
Green Tea .World USA, Inc.
Chairman 前田拓さん
Web : www.maeda-en.com

今回の事業は、日本産の”本物“のお茶をアメリカに広めるほかに、海外展開を目指す日本の地方中小企業の基盤作りという意味合いもあります。地方発の産品と言えば、山口県の小さな酒蔵が活路を開き、今や世界でその名を知られるようになった「獺祭(だっさい)」がありますが、実際のところ、地方企業の単独での海外進出はあまりにもリスクが高い。企業が連携することで、東京などを経由せず、地方発即世界進出を実現させる夢のある事業と言えます。
 
日本が誇る名品をアメリカに広げるチャンスを頂いたありがたさと同時に、責任の重さをひしひしと感じていますが、万全の体制で臨み、最終的には世界で1000店舗展開を目指していきます。生産者から販売業者まで、日本のお茶業界全体が潤うこと、そして地方中心企業の希望の星となれるようなモデルケースとしてきちんと結果を残したいですね。
 
将来的には、長崎県産品を超え、どんどん地方の名産品を発掘して、アメリカでプロモートしたいと考えており、地域産品の販売プラットフォーム構築に努めていきます。


浮世絵:伝統工芸継承と後継者育成を目指し、現代浮世絵を日米で販売

浮世絵プロジェクト

浮世絵プロジェクト第1弾KISS全4シリーズから「接吻四人衆大首揃」KISS直筆サイン入り:22万円/2500ドル(本体)、サインなし:10万円/1250ドル(本体)

江戸木版画技術保存と継承を目的にロサンゼルスで設立。ロックバンドKISSの浮世絵シリーズ を制作し、すでに「接吻四人衆大首揃」「接吻四人衆変妖図」(2月27日)、ももいろクローバーZとのコラボ浮世絵「桃色四葉乙接吻四人衆大合戦絵巻」(7月2日)が販売されている。今後も世界市場に向けて、世界のポップスターらとのコラボ浮世絵を販売していく。


KISSとのコラボレーション・新たな浮世絵が蘇る

KISS浮世絵を手掛けた。彫師・渡辺 和夫さん
2010年に江戸木版画家伝統工芸士に認定されている

2014年の夏に「浮世絵プロジェクト」を立ち上げ、現在ロサンゼルスを拠点に、第1弾プロジェクトとなる、ロックバンドKISSとコラボした浮世絵シリーズ全4枚(各200枚限定)を、日米で販売しています。
 
浮世絵は、江戸時代にニュースやトレンドなどの情報を伝える風俗画として生まれ、絵師、彫師、摺すり 師の手によって3段階に分けて作られる非常に精微な総合芸術です。まさに” クールジャパン“を体現する日本の伝統工芸ですが、現実的には仕事が減少している上、深刻な後継者不足が問題になっています。事実、浮世絵の木版画を専門にしている絵師はおらず、彫師は日本全国で9名、摺師は30名しかいません。
 
「浮世絵プロジェクト」を設立するきっかけとなったのは、ある版元(浮世絵の出版社)との出会いでした。彼らは漫画とコラボしたり、現代美術を浮世絵にしたりと、業界に新風を吹き込んでいたのです。彼らの活動に触発され、私たちは世界のポップスターやアイコンをテーマにした浮世絵を日本で作り、まずはアメリカ、そして世界に向けて販売することで、江戸木版画技術の保存や継承に結びつくのではないかと考えるようになりました。


伝統工芸の価値を伝える浮世絵“クールジャパン”

【取材協力】
Mitsui Agency .International, Inc.
浮世絵プロジェクト代表 三井悠加さん(左)
チーフプロデューサー 青池奈津子さん(右)
Web : www.ukiyoeproject

後継者を育てる余裕すらないという状況を打破するには、市場を広げ、とにかく新しい仕事を生み出すことが必須です。KISSの浮世絵には、江戸木版画家伝統工芸士である彫師の渡辺和夫さんなど、熟練の職人さんたちが携わっているのですが、これまでの常識を覆すような新しい浮世絵の形に抵抗はなく、むしろ挑戦することに意欲を感じていらっしゃるようです。
 
KISSの浮世絵は、ウェブサイトのみで販売しており、現在日本の方が圧倒的に売れ行きが良いですね。しかし先月ロサンゼルスで開催された「アニメエキスポ」に出店した際に、観覧用の作品を見て「1万ドルの価値はあるでしょう」とコメントしてくれたアメリカ人もいて、アプローチ次第では、大きな市場になるのではという感触を得ました。
 
今後もポップスターとコラボしたプロジェクトを企画していますが、まだまだ手探り状態。「レディ・ガガの美人画」など、物珍しさで興味を持ってもらうだけでは本末転倒。アメリカで市場をきちんと開拓するためには、浮世絵の歴史や技術・技法の高さをきちんと伝え、その価値を真に理解してもらう必要があると思うんです。かつてその斬新な画法や色使いで、ゴッホなど世界に名だたる芸術家に大きな衝撃を与えてきましたが、未だに浮世絵はポスターのような大量印刷物だと思っている方も少なくないのが実情ですから。
 
社員わずか3人で立ち上げた、無謀とも思えるこの「浮世絵プロジェクト」に、いち早く賛同してくれたKISSベーシストのジーン・シモンズさんは、浮世絵について、以下のようなコメントを残してくれました。“Ukiyo-e, that’s Nippon, that’s tradition, that’s history, that’s kabuki, that’s deep deep culture. We respect it.”
 
いつの時代もどこの国でも、素晴らしいものは、どんな形になっても、その価値を素直に受け入れようとするアメリカの懐の深さを、世界市場に向け一歩踏み出したことで、改めて実感しています。
 
※このページは「2015年8月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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