アメリカ文化に浸透する、あの製品を作るあの日本企業(HARIO・スノーピーク)

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数多くの在米日系企業の中でも、今回は特に、その製品がアメリカ文化に深く浸透している2つのユニークな企業にフォーカス。製品が売れるまでの経緯やマーケティング手法、今後の展望などに迫りました。


 

アメリカのコーヒーカルチャーで強い存在感を放つ「HARIO(ハリオ)」

HARIO株式会社◎1921年創業の耐熱ガラスメーカー。本社は東京都中央区。日本、アジア各国、アメリカ、ヨーロッパ各国にてコーヒー関連器具やティー関連器具などを展開する。
お話を聞いたのはHARIO USA, INC. 社長 宇野良平さん
HARIO製品

 

約10年前に発生し、今や一過性のブームを超えて定着しているアメリカのコーヒーカルチャー、「サードウェーブ」。産地や農家にこだわって仕入れ、焙煎した高品質のコーヒー豆を、バリスタが店頭で一杯ずつハンドドリップで入れるというスタイルが特徴で、Blue Bottle Coffeeや Stumptown Coffee Roasters、Intelligentsia Coffeeなどが有名です。そんなサードウェーブのロースタリー(焙煎所)やカフェで必ずと言っていいほど見るコーヒー器具がハリオの製品。同社の宇野社長にお話を伺いました。

宇野良平さん

1976年東京生まれ。2005年、HARIO株式会社に入社し、国際部にて勤務。14年、 HARIO株式会社の米国現地法人としてHARIO USA, INC.を設立し、社長に就任。17年、HARIO株式会社常務取締役に就任。

―御社の売上高は2011年9月期の53億4200万円から2016年9月期には74億750万円へと、右肩上がりで推移しています。ガラス技術をコアに、コーヒーやお茶関連器具、酒器、調理 器具など、さまざまな製品を展開されていますが、最も売れているのはやはり、コーヒー器具ですか? また、アメリカでの売上は世界的に見ても大きいのでしょうか?
 
はい。世界的に見てコーヒー器具が一番売れています。アメリカでも売上の8割はコーヒー器具で、ドリッパーを主体に、ペーパーフィルター、コーヒーサーバー、ケトルなどからなる「V」シリーズが主力製品となっています。日本以外ではアメリカをはじめ、中国、韓国、シンガポール、ヨーロッパ各国など、約70カ国で商品を販売していますが、アメリカでの売上はその中でも大きく、海外での売上の4分の1くらいを占めています。

 
 

「V60 Dripper」

プラスチック、セラミック、耐熱ガラスなどさまざまな素材で作られる「V60 Dripper」($5.33~)。独自のらせん状に刻まれた溝により、ペーパーフィルターをドリッパーに密着させずに素早く湯を落とし、コーヒーの旨味をしっかり抽出します。

―なぜアメリカにおいて御社の製品がこれほど受け入れられたのでしょう?
 
「V 」シリーズのドリッパー、「V60 Dripper」は2005年に発売されたのですが、それから5年間、アメリカでの売上は、ほぼゼロでした。しかし2010年、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップで優勝したバリスタが「V 60 Dripper」を使っていたことでアメリカはもとより、世界で注目を浴びました。加えて、その頃からサードウェーブコーヒーブームが加速していったこと、さらにYouTubeなどの動画サイトやFacebookなどのSNSが急速に普及し、多くのバリスタや一般ユーザーたちがネット上で広めてくれたことで、アメリカでの売上が伸びていったんです。

 

HARIO製品

右の「Drip Kettle」($49.78~)をはじめ、ドリッパー、サーバー、マグカップなど、トータルで揃えられるのが魅力。

   

―しかし製品そのものが良くなくては、これだけ普及することはないですよね。
 
もちろん、品質の高いものを作っている自信はありました。あと、サードウェーブは日本の古き良き喫茶店文化に影響を受けているところも多く、日本の製品に対するリスペクトは感じますね。また、弊社の場合はドリッパーからペーパーフィルター、サーバー、ケトル、グラインダーなど、コーヒー器具全般をカバーしているので、トータルで揃えてもらいやすく、結果売上が伸びるというところもあります。一般消費者向けで言うと、Targetなどのスーパーでも品数が多いと棚を専有できま すから、そこも強みですね。

 

コーヒー豆を挽くコーヒーミルもさまざまなタイプ

コーヒーの抽出量と時間を同時に計測できる「V 60 Drip Scale」($51.86~)。

―発売当初から、製品は進化してきているのでしょうか?
 
もちろんです。バリスタたちとは密にコミュニケーションを取り、現場の意見やアイデアをもらい、それを商品開発に生かしています。例えば「V 60 Dripper」も発売当初はプラスチックとセラミックだけでしたが、その後、耐熱ガラスやメタル製の物も作りました。また、「V 60 Drip Scale」という、コーヒーの抽出量(重さ)と抽出時間を同時に計測することで、プロはもちろん、一般ユーザーも常に安定した味のコーヒーを入れられる製品があります。これはイギリスのジェームス・ホフマンというバリスタとディスカッションを重ねた結果出来上がった、自慢の製品です。

 

―現状、かなりアメリカのコーヒー文化に浸透していて、盤石にも見える御社ですが、アメリカという市場の難しさは感じられていますか?
 
競合メーカーは多いですし、安価なコピー品も増えてきています。また、アメリカのユーザーは新しい商品に対する抵抗が少ないという点が弊社にとっては難しいところと感じています。「コーヒー器具と言えばハリオ」というブランディングが浸透していても、ベンチャー企業が作る新商品に魅力があれば、すぐにそれを取り入れる柔軟さがある。実際それでシェアを取られたこともあります。サードウェーブブームもいつまで続くか分からないというのもありますし、安泰とは全く思っていません。

 

水出し茶用のフィルターが入ったボトル

水出し茶用のフィルターが入ったボトル「Filter-in Bottle」($26.67~)。

―今後、アメリカで取り組んでいかれたいことは何でしょう?
 
弊社のコーヒー器具は、プロのバリスタが使うものというイメージがまだまだあります。それをいかに一般ユーザーにも深く浸透させていくかが今後の成長のカギですね。それにはSNS などを使った啓蒙運動も大事だと思っています。また、コーヒー豆の産地である中南米も新たな市場として期待しており、今後、弊社の製品を流行らせていけたらと思っています。あとは先 ほども申し上げたように、サードウェーブブームがいつまで続くか分からない ところもあるので、日本茶や紅茶関連の製品の売上を伸ばしていきたいです。 例えば、日本では5年前ほど前から水出し茶の器具および飲み方の提案をしているのですが、アメリカではまだその活動ができていないのでやっていきたいですね。

 


 

アメリカのアウトドアショップで製品を見ない日はない!?「スノーピーク」

株式会社スノーピーク◎1958年創業のアウトドア総合メーカー 。「自然指向のライフスタイルを提案し実現すること」を事業目的に、さまざまなアウトドア用品を展開する。
お話を聞いたのはSnow Peak Inc. A Corporation of Japan General Manager 坂東佑治さん

 

アメリカのアウトドア量販店に足を運べば、ほぼ確実に目にするスノーピークの製品。携帯ガスバーナーやクックウェアを中心に、アウトドア大国アメリカでこれだけ受け入れられている秘密は? 今後の展望なども含め、同社北米本社General Managerの坂東さんにお話を伺いました。

坂東佑治さん

1978年生まれ。東京電機大学大学院修了後、ハイテクベンチャー企業に就職。 2006年よりBurton Japan GKにてセールスアナリスト、E-Commerceなどを担当。2016年、早稲田大学ビジネススクールを修了し、同年スノーピーク入社。

―アメリカにはいつから進出されているのでしょう?
 
1996年にアメリカの拠点として Snow Peak U.S.A., Inc.をオレゴン州のクラカマスに設立し、カナダを含む北米での事業を開始しました。2013年にポートランドに転居し、同時に路面店をオープン。16年にはニューヨークにも路面店をオープンしました。

 

―御社の売上は 36億9200万円(2012年12月期)から92億2200万円(2016年12月期)へと大きく伸びてきています。これには アメリカでの売上も寄与しているのでしょうか?
 
基本的に、ここ数年の成長を牽引したのは、日本を核とするアジア市場です。日本ではキャンプブームの再到来という流れがあり、それに押された形もありますが、そもそもその流れ自体、スノーピークを中心に起こったものとも言えると思っています。というのも、弊社は基本的に「広告費ゼロ」というスタンス。その代わり、毎年日本全国10カ所ほどで行うユーザーとの触れ合いを目的としたキャンプイベント、「Snow Peak Way」で社長の山井を含めた弊社のスタッフたちがユーザー一人一人とコミュニケーションを取り続けるなどして、まじめに製品開発をしてきました。 そして、その製品でユーザーに感動を与えて、また触れ合って…というのを繰り返してきたんです。加えて、極上のアウトドア体験ができるグランピングの提案や、アウトドアによる地方生事業など、新たな試みにも挑戦し、キャンプシーンを盛り上げてきました。

キャンプイベント

ユーザーとスノーピークスタッフが一緒にキャンプするイベント「Snow Peak Way」。まずはビジネス抜きで楽しむことを大事にしながらも、製品に関する感想やリクエスト、ユーザーの趣味嗜好などさまざまな情報が得られる貴重な場ともなっているそう

2017年に長野県白馬村で開催された「Gramping Hakuba presented by Snow Peak。

2017年に長野県白馬村で開催された「Gramping Hakuba presented by Snow Peak」。スノーピーク製品を中心としたキャンプ空間と豪華な食事を屋外で楽しむイベント。

 

「Giga Power Stove」

「Giga Power Stove」($39.95 ~)。高い機能性と無骨でシンプルなデザインが魅力。

―しかし、アメリカでも製品はかなり浸透していますよね。どの製品が特に売れているのでしょう?
 
北米で最初にブレイクしたのは、携帯ガスバーナー「Giga Power Stove」。あとはチタン性のマグカップやスポーク(先割れスプーン)、鍋やポットなどのクックウェアが主に売れています。これらは日本で作った製品が北米市場にうまくはまって受け入れられましたが、その他の製品、例えば日本では売れているテントなどの大きな製品が、北米ではあまり露出できていないことが今後の課題の一つですね。

スノーピーク

右上:「Al Dente Cookset」($99.95)、左上:「Classic Kettle 1.8」($99.95)、 中央 :「Double Burner Stove」($400)、左下: 「Collapsible Coffee Drip」($29.95)とマグカップ。

マグカップ

アメリカの雑貨屋などでもよく目にするマグカップ「TI- DOUBLE MUG」($44.95~)。

  

―御社のテントはなぜ、北米では普及が進んでいないのでしょう?
 
日米のアウトドアカルチャーには大きな違いがあります。日本ではキャンプそのものがレジャーであるのに対し、 アメリカでのキャンプはトレッキングやロッククライミング、ハンティングなどの一部として楽しまれるもの。地域にもよりますが、例えば温暖な気候の南カリフォルニアでは、トレッキングなら夜は寝袋とマットだけで寝る人も多い し、クライミングではとにかくライトウエートなテントがいい、というニーズ になる。さらにRVの屋根の上にテントを立てるなんてスタイルもある。そんな中に弊社のクックウェアは当てはまっても、日本の「キャンプに出かけて自然の中で仲間と優雅な時間を過ごし たい」というニーズに合わせて作った弊社の高スペックなテントが当てはまらないんです。ライトウエートの一つ上の カテゴリに弊社のテントは属すと思うのですが、それは量販店の安いテントで十分、という人が多い。ただし、これはあくまで既存市場に〝当てはめた〞 場合の話です。弊社の使命は市場を創造することなので、スノーピークらしいスタイルを豊かな経験価値と共に提案していくことで、新たなカテゴリーを形成できると考えています。

 

―そのあたりが北米におけるこれからの成長の一つのカギになりそうですね。

「Drip Kettle」

ニューヨーク店の内観。近年はアパレルにも力を入れており、スタイリッシュなウェアが並んでいます。

そうですね。先ほどの話もそうですし、アメリカのアウトドア量販店では銃が販売されていたり、迷彩服エリアが大きなスペースを取っていたり、本当にカルチャーが違うと痛感します。 ほかのスポーツやアクティビティーを見渡しても、日本とここまで違うカテゴリーは見たことがないくらいです。 ただ逆に、ここまで差があれば、些細なことがイノベーションにつながるチャンスも多いと思うので、何ができるか、 非常に楽しみでもあります。

 

―なるほど。今後の展望をもう少し具体的にお聞かせください。
 
まず、スノーピークが銃を作るということはありません(笑)。それは冗談として、弊社はただの物売りではありません。ユーザーの人生を、「自然と人、 人と人をつなげる」ことでより幸せにするため〝だけ〞に存在している会社です。ですから、アメリカでの市場シェアを増やすことを目的にするのではなく、ユーザーと実際に接してみて、スノーピークの価値観に共感してくれる仲間を増やしていきたいです。そのためには、先程も話した「Snow Peak Way」をアメリカでも開催したいと思っています。 年内には必ずやりたいですね。その中でスノーピークの製品がどのように使われ、感じられ、どんな問題があるのかを見つけ、今後の製品展開に生かしていけたらと。もちろん、その先には北米独自の製品開発というのもあるかもしれません。そして、北米でも多くのユーザーに、「スノーピークじゃなきゃダメなんだ」と言われるようになりたいですね。
 
(2017年12月16日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2017年12月16日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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