ピアニスト・フジコ・ヘミング◎コンサート直前インタビュー

演奏の中に詩や語りが入ったり色彩を表現しています

日本人ピアニストの母とスウェーデン人の父との間に生まれたフジコ・ヘミングさん。幼少の頃からピアニストとしての才能を発揮し、天才と賞賛される。耳が聴こえなくなるなど困難に見舞われたが、ピアニストになる夢は諦めず、プロデビュー。情感あふれる独特な演奏スタイルから「魂のピアニスト」と呼ばれ、絶大な人気を誇る。3年ぶりのアメリカツアーでロサンゼルスを訪れるフジコさんに話を聞いた。

Ingrid Fuzjko af. Georgii-Hemming◉日本人ピアニストの母と画家で建築家のスウェーデン人の父を持ち、ベルリンに生まれる。5歳の時、日本へ移住するが、父はスウェーデンに帰り、母子家庭で育つ。東京芸術大学を経て、NHK毎日コンクール賞など受賞。ウィーンでのコンサート直前に高熱をこじらせ耳が聴こえなくなるなど、幾多の波乱を乗り越え、プロデビュー。アルバム『奇蹟のカンパネラ』はクラシック界において異例の売り上げを記録。情感たっぷりの独特な演奏スタイルから絶大な人気を誇る、世界的ピアニスト©Samon Promotion, Inc.

リストを弾く時は大きな音でサーカス的に

母が弾いてくれたピアノが、私のピアノとの最初の出会いです。ただ、毎日、母からは「お前はバカだ」と言われ続けていたので、実は自分でも自分のことを〝イディオット〟だと、本気で思っていました。なので、ピアノを弾き始めて、周りの人たちから〝天才ピアニスト〟と呼ばれても、信じられませんでした。

子供の頃に聴いた曲で、印象に残っているのは、リストの「ラ・カンパネラ」。10歳の時に日比谷公会堂で(レオニード・)クロイツァー先生*が弾いたのを聴いて、「まあ! なんて美しい音色かしら」と感動したのを、今でも鮮明に覚えています。

それ以来、リストの曲が大好きになりました。リストの曲は、まるでサーカスのように人をびっくり仰天させるような旋律が多いんです。だから私もリストの曲を弾く時は、できるだけ大きな音を出して、サーカス的に弾くよう心がけています。

戦争が激化すると、ピアノを習うことも、演奏することもままならなくなりました。私は、人として1番醜いことは、誰かを傷つけることだと思います。命というのは自分のためにあるのではなく、〝愛〟を捧げるためにあるものです。その命を〝欲〟のために抹殺する、戦争をする人たちは、必ず地獄に落ちると思います。

命というと、私はネコが大好きで、捨てネコたちを何匹も拾って育てているの。ピアニストとして脚光を浴びる存在になれたのは、今まで私が命を救った動物たちが、恩返しをしてくれているからのような気がします。イヌは一生恩を忘れませんし、ネコは幸せを運んできてくれると、私は思います。

日本も戦争をして命を粗末にしたけれど、いい所もあり、悪い所もあります。ただ、昔の日本は、今よりもいろんな意味で美しかったと私は思うの。

©Ikuo Yamashita

恋はいい仕事をするための燃料

私がドイツに留学している間に、カラヤンを始め、多くの天才音楽家たちに出会いました。最高の音楽に触れられたこの時期の経験は、私のその後の音楽人生にどれだけプラスになったかわかりません。そのなかでも、1番の思い出となったのは、バーンスタインに出会ったことです。また20世紀最高の作曲家で指揮者のブルーノ・マデルナに認められ、彼のソリストとして契約したことは、私の人生の誇りのつとなりました。

最近、興味を持っている音楽家は何人かいますが、私はパリに住んでいますので、フランス人のローラン・コルシアというヴァイオリニストに注目しています。彼は私のパリ公演を聴きに来てくれましたが、とても素敵な方でした。

近年になって皆さんから、「魂のピアニスト」などと評されています。最近、高い技術を持った演奏家がたくさん出て来ています。ただ、テクニックというのは〝技巧的に早く正確に〟弾くということではないと思います。

私の演奏の中には詩や語りが入っていたり、さまざまな色彩を表現しています。作曲家がどういう想いでその曲を作ったかを、大切にしているつもり。だから、私の演奏は毎日変化します。本当のテクニックというのは、人の心に触れることができるかどうかではないでしょうか。私は、いいピアノの音色を出すには、恋愛が必要だと思いますよ。恋はいい仕事をするための燃料となるのよ。

私の今後の人生の目標、夢ですか? 私の夢は、有名になれなくてもいいから、私の音楽を聴いてくれる人の前でピアノを弾くことでした。これからもそうです。私にとって音楽、ピアノは、子供の頃から唯一諦めなかった夢です。私の演奏を聴いて癒される人がいる限り、私は演奏し続けます。

ロサンゼルス、オレンジ、サンディエゴのファンの皆さん。当日は、どうぞ会場に足を運んでください。いい演奏をできるよう頑張ります。

*フジコさんの母のドイツ留学の時の恩師。フジコさんの才能を認めた最初の人物。

フジコ・ヘミング コンサート・インフォ

場所: Orange County Performing Arts Center
  600 Town Center Dr., Costa Mesa
  www.ocpac.org

■2/13(火)・8:00pm
♦チケット購入:$25~$85
 OCPAC BOX OFFICE     (☎714-556-2787)
 All American Tickets    (☎1-888-507-3287)
 紀伊國屋書店  コスタメサ店 (☎714-662-2319)
        ロサンゼルス店(☎213-687-4480)
 三省堂書店コスタメサ店   (☎714-556-2200)
 旭屋書店トーランス店    (☎310-375-3303)
 H.I.S.           (☎1-877-447-8721)

「魂のピアニスト」と称賛されるフジコ・ヘミングが、3年ぶりのアメリカツアーでロサンゼルスを訪れます。今回は、過去にエミー賞を受賞している南カリフォルニアの名門オーケストラ、グレンデール・シンフォニー・オーケストラとの共演で、演目はベートーベン・ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」。第2部には、カラヤンから「神様からの贈り物」と絶賛された韓国人ソプラノ歌手、スミ・ジョーが出演します。
 
(2007年2月1日号掲載)

「特別インタビュー」のコンテンツ