映画監督 / 井筒和幸

映画はオリジナルストーリーがいい。サプライズがあって、日本人を表すような

在日朝鮮人をテーマにした青春群像劇、映画『パッチギ!』で、国内の映画賞を軒並み受賞する旋風を巻き起こした井筒監督。独自の批評精神を買われ、さまざまな分野での辛口コメンテーターとしても知られ、レギュラー番組も持っている。11月に、UTB・ジェトロ主催のショートフィルムコンテスト「Picture Battle×Show Biz Japan」の審査員として訪米した際に、日米の映画界、映画のあり方について聞いた。

ロスの日本人作品は有望株揃い

2007年の夏にも審査員としてロスに来ましたが、さすがに07年よりグレードアップしてますね。日本にもこの手のコンペがあるんですけど、日本のテクニックは負けてます。ロスにはクリエイティブの土壌がある。作品を持って来るディレクターやプロデューサーには、ロスの映像コースで学んだ人、学んでいる人が多い。テクニックも長けているし、テーマの絞り方、見つけ方も上手い。

日本の映画界は元気がない。テレビ主導になってますから。子供を対象にしたようなモノしか作っていない。映画も原作がテレビドラマや小説っていうのが多い。バカみたいでしょ。原作が150万部売れたとか、そんなのどうだっていいんだよ。

そこから見ると、08年のコンペは有望株がいっぱいいたよ。大したものだよ。みんなバイリンガルだしね。しかも、ハリウッドに乗り込んでやろうという欲望を持っている。なかなか頼もしいことですね。何しろ「欲」が大切。

僕がロスに来ていた時期に、アメリカでは色々なことがありました。大統領選挙では民主党のオバマが勝って、これからどんな変革が行われるか見ものですね。ところがその一方で、同性婚はダメだという、カリフォルニアの住民投票の保守的な結果はちょっとつらい。それが「本当の自由」なのか? 「自由」とは一体何なのか? 考えさせられました。本当の自由、民主主義とは何かと感じさせるイベントに、リアルタイムにロスで立ち会えたのは、日本人の映画監督で多分オレだけ。ちょっと面白い経験をしたなと思う。

アメリカがすべてにおいてグローバルスタンダードだった体制は崩れちゃった。金融が崩壊して、市場経済主義がおかしくなった。お金の貸し借りばかりして、夢を膨らませるだけ膨らませ、モノを作らないで、買うだけ買って、消費して……。消費することに命がけで、誰がモノを造るの? モノは外から買えばいい、足りなければドンドン証券を作って、金が金を生めばいい、と。これはやり過ぎですよ。そりゃあ崩壊するよ。支払いができない人間に、信用を持たせて金を貸してるんだから。

アメリカには心に迫る大人の映画がない

日本の映画界もダメだから偉そうなことは言えないけど、アメリカの映画界もダメ。なにせ売れたのが″クモ男に″コウモリ男でしょ(苦笑)。もっと人間臭いストーリー、人生の機微に触れる映画を作らないと。大人の観る映画が減ってきているのよ。

日本人の大人で、しみじみとしたハリウッド映画が観たい人はいっぱいいるわけですよ。そういう客が付かなくなっちゃった。だから今、日本では洋画が全滅です。軽薄な作品が多いから。ハリウッド映画はもうちょっとレベルアップしないと。僕は、次回作はロスに持ち込んでやろうと思ってます。僕の作品はエピックストーリー。みんなが興味を持てるテーマですよ。そうでしょ、一大叙事詩っていうのは。

このコンペのように、日本から来た若きクリエーターたちが、アメリカの土壌で頑張るっていうのは、いいこと。まさに″チェンジですね。アメリカに媚びず、日本の素晴らしいアイデンティティー、考え方をアメリカに輸出できるような、そういうワールドなノリでできるような若い作家、クリエイター、 ディレクターが出て来ることを期待します。

先日、ロスに住んでいる在日(コリアン)の方たち50人ぐらいがミニパーティーを開いてくださって、最高の夜を過ごしました。日系人も在日の方も、みんな頑張ってますよね。日本にいる日本人はふやけてるから、見習わなイカンところがいっぱいあります。在日出身でロスに暮らしている人たちに「励ましてくれ!」って招かれて、逆にオレが励まされましたよ。

世界=ハリウッドという神話はない

日本人が映画を作るなら、日本オリジナルのアイデンティティーをちゃんと持ってほしい。そうでないと、世界に通用しないと思う。世界=ハリウッドっていう神話はもうない。映画っていうのはオリジナルなものだから、ドメス(ティック)なものですよ、元々は。

 

若くて有能な人材が流出していくという危惧があるけど、それがわかっていてハリウッドに渡るんならいいわけ。若き才能がハリウッドによって磨かれて、また日本に戻って来るというのが1番望ましい。日本人が″アメリカ人になってもうたら、もうアカンやん。日本人はハリウッドにいようが、ロンドンで暮らそうが、日本人ですよ。

最近の日本の映画界はテレビ、マンガと、つまらん小説の焼き直しばっか。映画はオリジナルストーリーがいいに決まってますよ。サプライズがある、誰もやったことがないオリジナル。しかも日本人を表すようなね。僕は日本のカルチャーを撮りたい。どんな文化でもいい。食文化、考え方、生活習慣、民主主義、自由、平和、日本のスタンダードは世界中に売れるんだから。

最近良かったと思う日本映画か……。ないねぇ(苦笑)。アメリカ映画だったら、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『There will be the Blood』。アカデミー主演男優賞を取ったけども、作品自体が素晴らしかった。アメリカの歴史をちゃんと入れてる。石油王に成り上がっていく話で、成功の陰にはものすごく醜いこと、非人間的なことがいっぱいあったんだということをちゃんと描いた。これを世界中にちゃんと見せたところがスゴイ。それ以外はダメ。クリント・イーストウッドもスコセッシ、コッポラも、みんなどっか行っちゃった。

日本のクリエイターとハリウッドのクリエイターに違いはないと思う。そんなに差はないと思いますね。ただ、日本のクリエイターにはひらめきがないな。ショートストーリーを作る腕がない。それはプロでもダメだね。ショートストーリーを上手く組み立てられない。パッションがないんだよ。アメリカの映像学校上がりのセミプロに負けてる。

でも、最近のハリウッド映画界もプロがクモ男にコウモリ男だから、ちょっとどうかな。アニメーションも多いけど、とにかく無難な作品はダメ。映画は無難じゃダメなんだよ。映画制作はインベストメントだって言うけどね、冒険しないと。ハリウッド映画も、もっと冒険をしてほしいね。じゃないと、日本映画も張り合いがないよ。

いづつ・かずゆき●1952年奈良県出身。県立奈良高校在学中から8ミリや16ミリの映画を撮り始め、75年に高校時代の仲間と映画制作グループ「新映倶楽部」を設立、映画界入り。81年には映画『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』(1983)、『晴れ、ときどき殺人』(1984)、『二代目はクリスチャン』(1985)、『突然炎のごとく』(1994)、ブルーリボン作品賞を受賞した『岸和田少年愚連隊』(1996)、『のど自慢』(1999)、『ゲロッパ!』(2003)など話題作を発表。『パッチギ!』(2005)では国内で数々の映画賞を受賞。
 
(2009年1月1日号 掲載)

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