小島侑也 / 米国三菱航空機エンジニア

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世界的に例を見ない設計でMRJが航空機業界をリードする。それが自分のモチベーション。

 

2015年11月に名古屋で初飛行を成功させ、話題になった日本初のジェット旅客機、三菱リージョナルジェット(MRJ)。2018年の実用化を目指し、昨年シアトルに開設されたエンジニアリングセンターで、防火システム開発に取り組む小島さんにお話を伺いました。
(2016年4月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

 

こじまゆうや◎愛知県出身。2009年豊田工業高等専門学校機械工学科卒。在学中にはニューヨーク州の高校で1年の留学も経験。2009年、三菱重工業株式会社名古屋航空宇宙システム製作所入社。同年7月三菱航空機株式会社に派遣される。以来、日本初のジェット旅客機、三菱リージョナルジェット(MRJ)の防火系統の開発に携わる。2015年8月より米国三菱航空機株式会社へ派遣され、現在に至る。

―現在の仕事に就かれた経緯を教えてください。

小島侑也さん(以下、小島侑也):高専で機械工学を専攻。航空分野にも興味があり三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所に入社しました。民間航空機、防衛、ロケットの部門から民間航空機を希望し、配属されたのがMRJの防火担当です。

―MRJとはどんな飛行機ですか?なぜアメリカで開発をしているのですか?

小島侑也:MRJは競合機と比べ、広い客室、環境に優しい機体、燃費の良さが特徴のジェット旅客機です。長年、三菱は防衛航空機や航空機メーカーへの部品納入に携わってきましたが、自社で旅客機を開発するのはMRJが初めてです。飛行試験を行うワシントン州のモーゼスレイクは24時間体制で飛行試験ができること、ボーイングのお膝元シアトルには経験豊富なエンジニアや、航空局に成り代わってアドバイスをくれるDERと呼ばれる職業の方など有識者が多く、彼らから技術や知識を得られることから、開発を加速するべく進出しました。大きな意味では、航空産業の進んでいるアメリカで弊社が知識や技術を得ることは、下請けからの脱却をはじめ、将来の日本全体の航空業界の裾野を広げることになると思います。

―飛行機の防火システムとは、何ですか?また、どんな開発をしているのですか?

小島侑也:防火システムとは、エンジン、補助動力装置、化粧室、荷物室で発生した火災を検知して、消火をするシステムです。
 
2008年、日本の航空法、連邦航空局、欧州航空安全庁が、新規で開発する飛行機の規定に「テロに対する設計」を盛り込みました。荷物室で爆弾が爆発しても耐えられる設計をしなさい、というものです。①荷物室で爆発物の破片のようなものが消火系統に当たっても耐えられるか、②爆発の圧力に耐えられるか、③爆発の影響による飛行機の変形を許容できるか、④2種の防火システムのうち片方が使えなくても残存した方が機能するか、の4項目が求められ、これらを満たしつつ、いざというときに消火剤を撒く消火系統の開発を行っています。被害を最小限に食い止め、飛行機が無事に着陸できるような設計を考えているわけです。
 
この規定は2008年に出されたばかりの要求ですから、世界でこの要求を満たしている飛行機はあまりないと思われます。

―MRJ独自の防火技術とは?

小島侑也:テロ対策設計の答えは1つではありません。規定に対し、コストを優先させるか、軽量化を優先させるかなど、メーカーの指針によってアプローチの仕方は多岐にわたります。技術の詳細をお話することは難しいですが、弊社含め、各メーカーは設計ノウハウを蓄積することが競争力を保つポイントなので、それをMRJのユニークさにつなげています。

―開発はどのような手順で行うのですか?

小島侑也:各航空局の領空を飛ぶには、「型式証明」と呼ばれる航空局の規定を満たしている証明を得なければなりません。そのため、この規定に対しこんなふうに実証を進めますと計画書類を航空局に提出し、規定を満たしていると証明できるまで試験や解析などの評価を続けます。これは、防火システムに限らず、あらゆる部門で必要なことです。

飛行機の放火系統は、基本的に作動してほしくないもの。「でも、テロ対策を施したシステムを搭載した飛行機で乗客に安心感が与えられたらうれしい」と小島さん。©三菱航空機株式会社

―失敗したり計画通りいかないときは?

小島侑也:一番大事なのは安全と規定を満足させることです。そこを満たしながらどこを変えたら問題解決できるのか、各部門と調整したり、有識者とも相談しながら打開策を検討します。

ー仕事で難しいことは?

小島侑也:コミュニケーションです。1つは言葉の壁。航空産業は欧米で発展してきたこともあり、参考資料や文献、有識者とのコミュニケーションも全て英語です。
 
もう1つは各部門との連携。自分がある仮説を立てても、他部門やサプライヤーの合意が得られないと実証まで辿り着きません。防火システム設計で理想を描いても、図面担当や電気系統担当から「この案では問題がある」と指摘されることも。防火システム担当といえども、機体全体のバランスを見てコミュニケーションをとることが重要です。

―どんなことが小島さんの仕事のやる気の源ですか?

小島侑也:先ほど申し上げた通り、2008年に出された要求を満たす飛行機はほとんどない、つまり、これを満たした防火システムが実用化されれば、航空機業界や他社に対してMRJがこの分野でリードできるということです。辛いときもありますが、ここを乗り切ったら世界的にも例を見ない設計ができる、第一人者になれる、その思いが自分のモチベーションになっています。

―今後の予定は?

小島侑也:今年中にはモーゼスレイクで飛行試験を開始します。今はそのために、飛行試験でどんな試験を実施するか計画を立てたり、有識者と型式証明取得の調整をしているところです。
 
型式証明取得を経て、2018年には実用化する予定です。ローンチカスタマーがANAなので、まずは日本国内で乗れる確率が高いでしょう。早く皆様に乗ってもらえるよう尽力します!
 
※このページは「2016年4月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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