野村万作 / 狂言師・人間国宝

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狂言は、美しく面白く可笑しい今回はさらに分かりやすい

来る5月6日、7日にロサンゼルスのリトルトーキョーで、狂言師で人間国宝の野村万作さん、息子で同じく狂言師の野村萬斎さんらが出演する「狂言の夕べ」が開催されます。公演を前に、万作さんにお話をうかがいました。
(2015年11月16日号ライトハウス・ロサンゼルス版掲載)

のむらまんさく◎1931年東京都生まれ。狂言師。「万作の会」主宰。重要無形文化財各個指定保持者(人間国宝)、文化功労者。3歳で初舞台を踏む。早稲田大学文学部卒業。狂言の技術の粋を尽くす秘曲「釣狐」に長年取り組み、その演技で芸術祭大賞を受賞。その他、紀伊國屋演劇賞、日本芸術院賞、紫綬褒章、坪内逍遥大賞、長谷川伸賞等、多数の受賞歴を持つ。国内外で狂言の普及に貢献し、現在の狂言隆盛の礎を築いた。

―万作さんとアメリカとの関わりは?

野村万作さん(以下、野村万作):僕にとって初めてのアメリカ公演は1963年のシアトルで、その巡業でサンフランシスコとロサンゼルスも訪れました。当時はちゃんとしたホールもなく、リトルトーキョーの高野山別院で公演したのを覚えています。能の謡を習っているグループの方々が手弁当で支援してくださって、僕たちをいろいろなところに案内してくださいました。UCLAは早くから日本の伝統芸能の支援を行っており、1981年には日本舞踊、能、狂言、長唄、お囃子の名手を集めた「日本伝統芸能5人の会」として招かれて講座を持ち、教える機会もありました。それぞれの訪問に思い出があり、ロサンゼルスには愛着があります。

―かつて日本では「笑い」は低い地位に置かれ、狂言は能の付属のような扱いの時代があったといいます。

野村万作:ヨーロッパでは喜劇は悲劇と同等に扱われ、上下はないのですが、日本にはかつて「武士は片頬に3年」と言われるほど「めったに笑ってはいけない」という笑い不遇の時代がありました。若手の頃は、それまで狂言を見たことがない人も見に来てくれるよう、演劇の作品を狂言で演じるなど新しいことに取り組み、とにかく狂言を見てくれる人を増やそうと努めました。僕たちが海外で公演を行って評判になると、「外国の人々がこんなに喜んで見てくれる。じゃあ日本人も振り返って古典を見なければ」と日本の人々が再確認したりするので、日本に帰ってから報告会をしたり、新聞に記事を書いて送ったりと、狂言の評価を高めようと努力しました。

―伝統芸能の狂言では、基礎である「型」が重要であり、個性を表現できるようになるのは、型を修得してからだと言われます。自分の狂言を表現できるようになったのはいつ頃ですか。

野村万作:師匠である父と一緒に舞台に出ていた頃は、「こう喋りなさい」と習ったことを忠実に演じていました。父が亡くなってから、「なぜこういうふうに喋るのか」という台詞一つ一つの意味を自分で考え、発見するようになりました。個性というものが発揮されていくのはそれからであると思います。また、年を重ねて50、60代で台詞を考えると、20、30代の頃のように頭でっかちな解釈とは違ってきます。そうして、年齢に合った「自然な」リアリズムの劇になっていくのです。

―息子である萬斎さんの取り組みをどう見ていますか。

野村万作:彼は幼少から狂言の古典を習い、20代後半にイギリスに1年間留学しているんです。シェイクスピアの『間違いの喜劇』を『まちがいの狂言』と翻案して主演、演出するなど、若い時の環境が、新しいことへの興味、シェイクスピアへの興味につながっていったんですね。狂言の古典を伝えるとともに新しい場の開拓も始めて、テレビに出たり、映画にも出たりということを積極的に始めて、あれよあれよという間に巣立っていきました。彼は今、世の中の芸術、演劇、文化、エンターテインメントの海を縦横に泳いでいますね(笑)。

―狂言を見に行くにあたって、予習は必要でしょうか。

野村万作:狂言は分かりやすいと思いますし、今回は英語字幕が付きますから、予備知識なく楽しめると思います。狂言の台詞は日本語ですが、古典ですから耳慣れない言葉もあります。日本で狂言を見るよりも、字幕付きのアメリカの舞台で狂言を見る方が分かりやすいということがあるかもしれません。当日は、公演の前に萬斎が「ディスカバー狂言」と題して狂言の楽しみ方についてレクチャーを行いますから、より分かりやすくなるのではないかと思います。

「狂言の夕べ」An Evening of Kyogen

■日時:5/6(土)5:00pm、5/7(日)5:00pm
■会場:Aratani Theatre(244 S. San Pedro St.,Los Angeles)
■チケット:$40(オーケストラ)、$30(バルコニー)、$20(学生)、 $100(ガラチケット、5/7のみ)
Web: www.festivalofsacredmusic.org/ma
TEL:213-680-3700(Aratani Theatre Box Office)

■関連イベント:5/5(金)野村万作さんによる講演、シンポジウム開催
5/8(月)、5/9(火)狂言講座開催(無料・事前申込)申込・詳細:www.alc.ucla.edu/kyogen

 

※このページは「2017年5月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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