柴崎 友香 / 作家

特別インタビュー・柴崎 友香さん(作家)

今年「春の庭」で第151回芥川賞を受賞された作家の柴崎友香さん。英語で日本現代文学を紹介する文芸誌『Monkey Business』の朗読ツアーで、初めてカリフォルニアを訪れられた柴崎さんに、小説の面白さや創作方法、ロサンゼルスの印象についてお話をうかがいました。

しばさきともか◎1973年大阪生まれ。大阪府立大学卒業後、会社勤めを経て、99年作家デビュー。2004年には『きょうのできごと』が行定勳監督により映画化。10年、『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞受賞。14年、『春の庭』で芥川龍之介賞受賞。

編集部:サンディエゴから始まったツアーはいかがですか?

柴崎友香さん(以下、柴崎):楽しいです。ユーモラスな作品を選んで読んでいるのですが、笑うところで笑ってくれて、こっちの人はリアクションがいいですね。

編集部:小説では意味だけでなく言葉も大切なものかと思います。自身の小説が翻訳で読まれることについてどうお考えですか?

柴崎:私自身、外国の小説が好きでたくさん読んできたので、言葉が違っても伝わるものもあるだろうし、もし誤解があったとしても翻訳はそれも含めてのものかなと。日本語が読める人だからと言って、全て意図した通りに伝わるわけではないですしね。書かれている世界に興味を持ってもらえればいいかな。違う言葉になると、自分ではあまり意識していなかった要素が目立つことや、そういう見方があったのか!と新しい発見があることもあります。

編集部:柴崎さんの作品は、どれも「ヘン」ですよね。どんなふうにあの世界に辿り着かれるのですか?

柴崎:ヘンですよね(笑)。普段から人を見るのが好きというのか、気になるんです。喫茶店にいても隣の席の人がすごく気になる(笑)。実は普通の人っていなくて、ジッと見ていると皆どこかに過剰なところがある。その面白いなとか、ヘンだなというひっかかりから想像していく感じです。。維持しようと思って維持しているわけではないのですが、子どものときの感覚がそのまま残っているのかもしれません。子どもって「あれって何でああなん?」とか聞くでしょう?私、しつこく聞いて、親や先生に面倒くさがられました。今はその疑問を自分で調べたり、考えたりできるようになったんですね(笑)。そういう小さな違いから、歴史的なことや社会的なことなど、いろいろなことが考えられますよね。

編集部:柴崎さんの目に映るLAは?

柴崎:ロサンゼルスは今まで経験したことがない感じで、人間の代わりに車がいるみたいで面白いです。ロサンゼルスに暮らしていると見慣れてしまうかもしれないけれど、違う所から来ると不思議だと思うし、逆にそれを体験して日本に帰ると、東京は人が多過ぎるように見えるかもしれない。異なるものを見ることで感覚がリセットされて、また新しい発見ができるところがありますね。

編集部:LAのことを書くご予定は?

柴崎:あると思います。でもすぐにそのままを書くわけではなく、体験したことが自分の中でフィードバックされて、何かしらの形で小説になって出ていくと思います。

編集部:映画がお好きなんですよね。

柴崎:好きですね。だからアメリカはどこに行っても、「あ!あの映画のあれだ」と。ロサンゼルスを舞台とした映画もたくさんありますけど、今はデヴィッド・リンチ感が強いかな。昨日ダウンタウン・ロサンゼルスを少し歩いただけでもすごく不思議なことがあって、「リンチの映画ってリアリズムなんだ」と思ったんです。日本では彼の映画は非現実的な世界に見えるけれど、ロサンゼルスでは普通、ではないかもしれないけれど、現実とつながった実感できる世界かもしれないと思いました。実は私は映像にとても影響を受けていて、最初は映画のように小説を書きたいと思ったんです。でも自分の小説が映画になって、撮影現場をよく見に行っていたのですが、やっぱり全然違うものでした。作り方も、できること/できないことも全然違っていて、そこから小説は自分がやりたいことを自由にやればいいかと思うようになったんです。

編集部:小説にしかできないこととは?

柴崎:ずっと模索中ですが、まずは映画は撮るのが大変(笑)。でも小説はお金はかからないし、時間も場所も選ばない。映画の撮影は天気にも左右されますが、小説は「嵐が来た」と書くだけでいい(笑)。15年くらいずっと書いてきて、こういうこともできる、ああいうこともできるんだと、少しずつ掴めてきたところです。

編集部:小説の楽しさとは?

柴崎:映画は外側から見る感じが強いですが、小説は書く方も読む方も、一回体の中に言葉が入ってくる感じがします。そうすると普段は体験できない他人の視点や、違う思考回路を一緒に体験できて、何かが体の中に残るところがある。小説は内側の感覚を書くのに強いかな。本当にその人のことが分かるわけではないのですが、他人の感覚を一緒に体験できる、それが小説の面白さかと思います。
 
(2014年11月16日号掲載)

芥川賞作家・柴崎 友香さんとめぐるミュージアムの旅 in ロサンゼルス

真っ青な空とパームツリーのおかげで、ロサンゼルスは美術にとぼしいと思われがちですが、実は世界に誇る美術館がわんさかあるのです!あまり知られていないその魅力を訪ねて、美術に造詣の深い作家の柴崎友香さんと一緒にロサンゼルスのミュージアムをめぐってみました。
 
文◎柴崎 友香

柴崎 友香さんとめぐるミュージアムーLos Angeles County Museum of Art (LACMA)ー

「巨大なエレベーターの周りの壁は、上から下までバーバラ・クルーガーの作品が展示されています」

「LACMAのミュージアムショップで、日本へのお土産をあれこれ購入しました」(柴崎さん)

ロサンゼルス、と聞いて、まず思い浮かべる観光地は、ハリウッドにテーマパーク、ビーチやショッピングあたりで、美術館!と答える人は少ないだろう。わたしも、昨年の秋に初めて訪れるまで、LAがこんなに美術館の宝庫だとは知らなかった。
 
最初に行ってみたのは、LACMA。Wilshire Blvd.に面した、街灯がびっしり並んだユニークな作品に迎えられ、オープンテラスのカフェが賑わう敷地内に入ってみると、とにかく広い!テーマごとに分かれた館がいくつもあり、一日では回りきれないほど。現代アートや南北アメリカの美術・工芸品、ドイツ表現主義、映画関係の資料などなど、あまりの充実ぶりに、一人でお祭り騒ぎ状態でよろこんでしまった。
 
広大な敷地を生かして、特大サイズのエレベーター型展示室(実際に乗れます)や中に入って体験できるジェイムズ・タレルの作品もゆっくり楽しめる。南北アメリカ大陸の古代文明の土器や人形は素朴で心がやわらかくなるようだし、絵画や家具からはこの大陸に渡ってきた人たちが生活や文化をどう作っていったかがよくわかる。
障子のような外壁が特徴的な日本館は、螺旋状の展示室もおもしろい。一階の根付コレクションは驚くほどの充実。動物や妖怪を象った、精巧でかわいい根付の数々は思わずほしくなってしまう。
 
お隣の、タールから今も化石を発掘中のペイジ博物館(Page Museum)と合わせて、ここでゆっくり過ごす休日はすばらしいだろうなあ、とLA在住の人が羨ましくなる。
 

Los Angeles County Museum of Art (LACMA)
5905 Wilshire Blvd., Los Angeles|☎323-857-6010|www.lacma.org|月火木11:00am-5:00pm、金11:00am-8:00pm、土日10:00am-7:00pm、水休|$15(一般)、$10(62歳以上、学生)、無料(17歳以下、第2火、LA郡在住者は平日の3:00pm以降も)

 

柴崎 友香さんとめぐるミュージアムーゲティーセンター・ロサンゼルス現代美術館ー

「展示の仕方がゆったりしていて、いい」

「 この作家、好きなんです。見られてうれしい」と柴崎さんが立ち止まったフィリップ=ロルカ・ディコルシアの作品

LAの美術館として次に名前が挙がるゲティーセンターは、ウエストウッドの山の上にある。無人運転のトラムで登ると、まるで別天地に来たように絶景が開ける。海まで一望でき、西海岸の空の美しさが目に焼き付く。ゲティーで驚くのは、 創設者の遺産で運営されていて、トラムも展示も無料なこと。
 
角度をずらして建設された各パビリオンは迷宮的な楽しみ方もできるし、日常から離れた場所だからこそ、作品ともじっくり向き合える。
 
再開発が進むダウンタウンLAにも、見所がたくさんある。ロサンゼルス現代美術館は前述の二つの美術館に比べるとこぢんまりして見えるけれど、アメリカの二十世紀の作品の宝庫。十代のころ、ポップアートの自由な表現に触れて世界に対する見方が更新された、その興奮が静かによみがえってくる。ミュージアムショップが充実していて、お土産にもぴったりだし、生活雑貨も使ってみたくなるものがいっぱいだった。近くで建設中のブロード現代美術館(The Broad・2015年9月開館予定)は、網みたいな不思議な外観はできあがっていて、開館がとても楽しみ。
 
少し歩くと、ウォルト・ディズニー・コンサートホールの銀色の建物が光っている。外から見ると金属質で未来的だけれど、階段を上ってみると庭園があり、木々が鮮やかな色の花をつけてとても美しかった。
 

Getty Center / ゲティーセンター
1200 N. Sepulveda Blvd. Los Angeles |☎310-440-7300|www.getty.edu|火~ 金日10:00am-5:30pm、土10:00am-9:00pm、月休|無料(駐車料金$15、5:00pm以降は$10)

The Museum of Contemporary Art, Los Angeles (MOCA) / ロサンゼルス現代美術館
MOCA Grand Avenue: 250 S. GrandAve., Los Angeles|☎213-626-6222|www.moca.org|月金11:00am-5:00pm、木11:00am-8:00pm、土日11:00am-6:00pm、火水休|$12(一般)、$7(学生、65歳以上)、無料(11歳以下、木5:00pm-8:00pm)

 

柴崎 友香さんとめぐるミュージアムー全米日系人博物館・ノートン・サイモン美術館ー

「情熱的なゴッホやゴーギャンにも圧倒されるけど、マネのセンスのよさには脱帽。足すところと引くところが完璧」と柴崎さん

全米日系人博物館には、明治のころに初めてアメリカやハワイに渡った日本人の資料や戦時中の強制収容の歴史が詳しく解説されている。戦時中の日系人の歴史はテレビで特集番組を見たことがあった程度だったので、ここで実際の建物や写真などを見、体験された方のお話を直接うかがう機会にも恵まれたのは、本当に貴重な経験だった。海を渡ってきたトランク、収容所の生活道具など、実際に使われていたものだからこそ伝わってくる歴史があった。同館ではキティちゃん展も開催中(5月31日まで)。キティちゃんの耳型をかぶったアメリカの中高生たちが館内を見学している光景が、心に残った。
 
パサデナまでドライブして訪れたのはノートン・サイモン美術館。海側とはまた違った緑豊かな街にあり、館の裏手にはまるでモネの「睡蓮」のような大きな池もある。彫刻の置かれた周囲をゆっくり散策するもの気持ちいい。相当な点数のドガのコレクションを始めマティス、ピカソなど近現代の名匠の作品が展示されていた。代表作とはちょっと違うおもしろい作品が多々あり、コレクションのセンスと作家に対する思い入れが伝わってくる、とてもいい美術館だった。ヨーロッパの近世絵画、アジアの彫刻や石像まで充実していて、こんな規模の美術館がまだ他にもあるなんて、ただただ驚くしかない。

柴崎さん撮影のノートン・サイモン美術館の庭。すぐ近くにこんな絵のような風景が広がる場所で見ると、絵もまた違って見えます
Japanese American National Museum / 全米日系人博物館
100 N. Central Ave., Los Angeles|☎213-625-0414|www.janm.org|火水金~日11:00am-5:00pm、木12:00pm-8:00pm、月休|$9(大人)、$5(62歳以上、学生、6-17歳)、無料(5歳以下、木5:00pm-8:00pm、第3木)
Norton Simon Museum of Art / ノートン・サイモン美術館
411 W. Colorado Blvd., Pasadena|☎626-449-6840|www.nortonsimon.org|月水木12:00pm-5:00pm、金土11:00am-8:00pm、日11:00am-5:00pm、火休|$12(一般)、$9(62歳以上)、無料(18歳以下、学生、第1金5:00pm-8:00pm)

 

柴崎 友香さんとめぐるミュージアムーシンドラーハウス・ジュラシックテクノロジー博物館ー

シンドラーハウスにて「こんな良いところがあるなんて、知らんかった」(柴崎さん)

ロサンゼルスには、個性的な、小さなミュージアムも数え切れないほどある。
 
ビバリーヒルズ近くの住宅街にあるシンドラーハウスは、日本家屋の特徴を取り入れたシンプルな建築。ガラス戸に囲まれた部屋で、庭を眺める時間の静寂は、なにものにも代えがたい豊かさがあった。
 
ジュラシックテクノロジー博物館は、一言では説明できないとびきり不思議な世界。宇宙船やちょっと不思議な動植物などから広がる、誰かの夢に入り込んでしまったようなパラレル・ワールドが待っている。鳥が遊び、懐かしい響きの音楽が演奏されている屋上庭園にいると、そこがロサンゼルスだとは信じられない。
 
外から見ると、シンドラーハウスは普通の生け垣に囲まれた住宅だし、ジュラシックテクノロジー博物館は倉庫と間違えて通り過ぎそうな入口。だけど、そこには特別な経験ができる空間が広がっている。
 
だだっ広いロサンゼルスの街は、一見味気なく、無個性にも見える。だけど、一歩、その中に踏み込めば、自由で、想像力に溢れる世界が待っている。
 
またすぐにでも、ロサンゼルスの街を探索したい気持ちでいっぱいだ。

Schindler House at Kings Road / シンドラーハウス
835 N. Kings Rd., West Hollywood| ☎323-651-1510|www.schindlerhouse.org|水~日11:00am-6:00pm、月火休|$7(一般)、$6(学生、シニア)、無料(11歳以下、金4:00pm-6:00pm)
The Museum Of Jurassic Technology / ジュラシックテクノロジー博物館
9341 Venice Blvd., Culver City| ☎310-836-6131|www.mjt.org|木2:00pm-8:00pm、金土日12:00pm-6:00pm、月~水休|$8(一般)、$5(21歳以下、学生、60歳以上、無職)、無料(12歳以下)

 

柴崎 友香

小説家。1973年大阪市生まれ。99年作家デビュー。2004年には『きょうのできごと』が行定勳監督により映画化。14年、『春の庭』で芥川龍之介賞受賞。最新刊『パノララ』大好評発売中。オフィシャルサイト http://shibato.com

(2015年5月16日号掲載)

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