日本政府は「在外邦人」をどこまで保護したらいいのか?

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

日本政府や在外公館は邦人保護に努力しているが…

2月に発生したシリア領内における日本人2名の人質殺害事件は、日本だけでなく国際社会に衝撃を与えた。事件の結果を重く見た日本政府は、改めて「在外邦人」の保護に関する体制の見直しを行っている。
 
例えば、外務省は「日本人、日本企業、及び日本人学校等の我が国の関係機関や組織がテロを含むさまざまな事件に巻き込まれる危険があります」という認識の下で、「日頃から危機管理意識を持つと共に、状況に応じて適切な安全対策が講じられるよう心掛けてください」というメッセージを出している。これは、私たち「在外邦人」への呼びかけである。
 
その一方で、あくまで相手国政府の要請や同意があった場合に限られるが、自衛隊を海外における邦人の保護や輸送ができるように法律を改正する動きも出てきた。
 
アメリカに住む我々としては、2001年の「9・11テロ」以来、テロの危険に関しては全国レベルの報道に留意すると共に、それぞれが地元の警察などの発表に従って危険を回避したり、安全確認に協力したりしてきている。
 
だが、そうした「アメリカの住民」としての意識とは別に、日本の政府が在外邦人の安全に関して、改めて高い関心を持って行動を開始しているというのはありがたいことである。「現場の事情も知らないで」というような反発も聞こえないわけではないが、それはそれとして日本政府や在外公館による「邦人保護」の努力には敬意を表し、また協力していきたいものである。

保護する対象はできるだけ拡大すべき

その一方で、この問題に関しては、日本側に要望したいこともある。読者の皆さんもいろいろな意見をお持ちと思うので、この機会にさまざまな議論をしていただきたいが、まず私の考える要望の第一は、「保護の対象」をできるだけ拡大できないかということだ。
 
最近では日本の在外公館の方々もサービス向上に努力をしておられるが、例えば01年の「9・11テロ」の際には、ニューヨークの領事館は「日本から日系企業に派遣されている駐在員」を優先して保護したとして批判を浴びた。また、「旅行傷害保険の被災認定」を取ろうとした日本からの出張者が日本領事館から証明を出してもらえないということが起こり、一方で、NY市役所では簡単に証明がもらえたことから「NY市役所の方がよほど日本人に親切だった」という不満が出た。
 
こんなことは論外であり、そして現在の在外公館の体制はずっと改善されていると思うが、では「保護対象はその土地に滞在している日本人全員」でいいのだろうか?私はそれでも足りないと考える。例えば日本人と結婚している配偶者、あるいは日系企業に勤務している現地採用の非日本人なども万が一の危機的な状況では「保護の対象」にすべきではないかと思う。
 
この点では、アメリカの在外公館は市民だけでなく、永住権保持者も米系企業の従業員も保護対象としており、危機対応だけでなく行政サービスもこうした広い範囲を対象にして行っている。日本の在外公館も、そのぐらいの「度量」を見せてほしいし、そうした主旨のコストには本国政府もキチンと予算をつけていただきたいものだ。
 
もう一つの要望は、「在外邦人の安全確認」に日本側が留意してくださるのはありがたいのだが、反対に「在外邦人から見た日本国内の家族や縁者の安全確認」にも、外務省は注意を払っていただきたいということだ。
 
11年の東日本大震災、1995年の阪神淡路大震災などに際し、我々は皆、日本国内の家族や親戚などの安否確認に大変な思いをしている。今はネット上のSNSなど民間のサービスが「手っ取り早い」とはいえ、万が一の危機対応としては、海外から日本への「安否確認」のシステムがあればと思うのだ。
 
いずれにしても、安全確保と安否確認は危機管理の中心であり、在外邦人のコミュニティーとしては、より良い体制を目指して本国と協力していくことが求められる。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

 

(2015年4月1日号掲載)
 
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2015年4月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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