エンターテイメント

今週のオススメシネマ

ジャンル アニメ
オススメ度 ★★★

イスラエル発のドキュアニメ
アカデミー賞受賞なるか?

Waltz With Bashir
声の出演 | アリ・フォルマン、オリー・シヴァン、
     ロニ・デェイグ、他
監督 | アリ・フォルマン
道端に折り重なるようにして倒れる死体。瓦礫の下から、息絶えた幼い少年の頭がのぞいている。『Waltz With Bashir』は、レバノンで起こったパレスチナ難民大量虐殺を描いた作品だ。実写ではなくアニメーションで描くことにより、現実とは少し距離を置いたように見せながらも、そのドキュメンタリータッチの映像には、ニュースの生映像を越えた説得力がある。

1982年のイスラエルによるレバノン侵攻に出兵したボアズ(ミッキー・レオン)が、自分の悪夢を語る。街中を野犬の群れがひた走る。1匹、2匹…26匹の野犬が、何かに取り憑かれたように走る。そして、フラッシュバックの映像。兵士が片っ端から野犬を銃殺する。野犬の目に映る死の恐怖、断末魔の叫び…。20年経った今でも、彼はこのトラウマに悩まされている。聞き手は同じ部隊にいたフォルマン監督だ。フォルマンは出兵した当時の記憶を断片的にしか覚えておらず、従軍した仲間にインタビューをして当時の出来事を検証している。声はすべて彼らの証言インタビューを使用。フラッシュバックのアニメ映像で、当時を振り返るドキュメンタリー方式で語られる。

当時19歳だったフォルマンと仲間の兵士が、全裸で海に浮かんでいる。暗い夜の海を照明弾が照らす。かつては高級リゾートだった海辺のホテルが、今では廃墟となっている。海から上がった青年たちは、無表情で軍服を着る。この夢とも現実ともつかない映像が、戦場にいる兵士たちの“狂気と正気の境”を映し出すようで、戦場での奇妙な現実感を味わった気にさせる。そして仲間の話を聞いているうちに、フォルマンはベイルートのパレスチナ難民キャンプで起きた虐殺事件を思い出す…。

イスラエルがパレスチナに建国され、パレスチナに元々住んでいたアラブ人が難民(パレスチナ難民)となり、これに激怒した反イスラエル派がパレスチナ解放機構(PLO)を作る。PLOは本部をレバノンのベイルートに置き、イスラエルに対するゲリラ攻撃を開始。報復攻撃として、82年にイスラエル兵によるレバノン侵攻が始まった。本作のタイトル“バシール”とは、70年代に起こったレバノン内戦の指導者だったバシール・ジェマイエルのことで、親イスラエル派の彼は82年にレバノン大統領に就任した。バシールが難民キャンプのパレスチナ人をレバノンから一掃すると、イスラエルが期待した矢先、彼は就任1カ月で暗殺された。そして、ベイルートのパレスチナ難民キャンプで大量虐殺が起こる。

独特なタッチのアニメ映像と、クラシック、ロック、パンクを交えた多彩な音楽が作り出す世界観は必見。本作は、すでにゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞し、アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされている。2月22日に行われるアカデミー賞受賞式では、日本からのノミネート作『おくりびと』とこの部門でオスカー像を競うのだが、今から楽しみだ。

©Sony Pictures Classics

【 文:MAMIKO KAWAMOTO
【文:MAMIKO KAWAMOTO
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