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ジャンル ドラマ
オススメ度 ★★★

2008年カンヌ映画祭で
審査員賞を受賞した、日本映画の秀作

Tokyo Sonata
出演 | 香川照之、小泉今日子、小柳友、他
監督 | 黒沢清
黒沢清というと、マインドコントロールにより猟奇殺人を起こす青年と刑事の対決を描いたサイコサスペンス『CURE』や、インターネットを通じてこの世とあの世のつながるサイトが開くという近未来ホラー『回路』など、作家性の強いホラー映画を作る監督というイメージが強い。だが、その一方で『ニンゲン合格』『アカルイミライ』のような、複雑な環境におかれた人間が、悩みながら生きる道を見つけていくといった人間ドラマも多数手掛けている。

本作は、 黒沢監督の後者のジャンルにおける秀作と言え、東京に暮らす家族の何気ない日常を描きながらも、その1人1人の複雑な心情と葛藤をしっかりと浮き彫りにした優れた人間ドラマだ。 海の向こうの東京での厳しい現実を垣間見るようで、思わず最後まで見入ってしまった。

東京に住む佐々木家一家は、父(香川)、母(小泉)、長男・貴(小柳)、次男・健二(井之脇海)の4人家族。ある日、父親がリストラに遭い失業する。しかし、父はその事実を家族にひた隠しにし、 スーツを着て出勤。失業者が集まる公園で無料の給食配給を受けては、ハローワークに通って職探しを続ける毎日を送っている。

母は、家族のために家事をする毎日に倦怠感を感じ、報われない自分の人生に押しつぶされそうになっている。大学生の貴は、ろくに授業にも出ず、バイトに明け暮れる毎日だ。小学6年生の健二は、家族に内緒でピアノを習い始める。美人の金子先生(井川遥)にその才能を認められるが、先生が両親に音楽学校への進学をすすめたことから、「男のくせにピアノだ〜?」と父親に猛反対される。それでも健二は、まるで家庭内の不和から現実逃避するように、ピアノに向かっていく。そんな時、貴がアメリカ軍への入隊を志願すると言い出し、一家はますますバラバラになっていく。

家庭の崩壊と再生を描いたドラマは数あるが、本作には、何か突出したものを感じた。事実を脚色せず淡々と描くことによって、ストーリーの現実味をより強く観客に訴えかけ、私たちを惹き込むのは、是枝裕和監督の『誰もしらない』にも通じる。

家族のベクトルがまったく別の方向を向き、それをたぐり寄せようとしても無理なのだ、と悟った時、母親はすべてを捨てて運命に翻弄されるがまま突き進もうとする。

絶望感を抱き、海辺に立ち尽くす母親を演じる小泉今日子の顔を見て、「人生経験を積んで、とても味のある、深みのある演技ができる女優になったんだな」と、アイドルの頃を思い浮かべて、人間として、女優として素晴らしい成長を遂げた“キョンキョン”をうれしく思った。健二を演じる井之脇の名演技も、このドラマの成功になくてはならない要素だろう。

本作は、日本に長年住む外国人の書いた手記を元に映画化した、というから驚きだ。観終わって、今度は米国在住の日本人がアメリカを描いた物語を見たいと感じた。


©2008 Fortissimo Films/『TOKYO SONATA』製作委員会

【 文:MAMIKO KAWAMOTO
【文:MAMIKO KAWAMOTO
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