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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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デザートに抜糸を

ミスター世界(関根 正和)

僕の愛犬が手術をした。

幸い経過は順調で、めでたく抜糸となった。

そのお祝いに、抜糸を食べよう、ということになった。

抜きとった糸を獣医さんからもらってきて、ソバツユでもかけて食べよう、というわけではない。

抜糸、という食べものがあるのだ。

中国料理のデザートで、中国語では「抜絲」と書き、「バースー」と読む(中国語には「糸」という字はない)。

バナナ(中国語で香蕉)、イモ(地瓜や紅薯)、りんご(蘋果)などの種類があって、これらの材料を軽く揚げ、砂糖を溶かした熱い飴で包んだものだ。

できたての熱ーいうち、飴がトロトロしているうちにテーブルに運ばれる。
同時に氷水が入ったボウルもやってくる。
そして衆目監視のなかで、ウェイターがトロトロしたやつを皿から箸でとり上げると、ピザのチーズのように、すーっと飴が糸をひく。これが、「抜絲」という名のユエンである。

これを氷水の中に投入する。
すぐさま各人の皿にとりわける。
氷水の中で冷やされることによって、飴が糸をひいた状態のまま固まる。
中のグはアツアツ、バナナやリンゴはとろけている。イモもホクホクだ。
外側の飴がカリカリとして、その対比がすっごく楽しい。

うーん、それって、どこかで食べたことある、と思うでしょう?
そう、大学イモです。

日本の大学イモは、この抜糸を手本にして、ゴマをまぶしたりして、日本風にモディファイしたものらしい。どこかの大学の門前で、学生相手に屋台を出したのがその名の由来ということだ。

抜糸のほうが飴の分量が多い。
そして、僕にいわせると、イモよりも、バナナやリンゴのほうがおいしい。

なぜなら、バナナやリンゴのほうがトロトロして、カリカリした飴とことさらよくマッチする。イモよりも腹にこたえないのもいい。

さて、この抜糸なるもの、チャイニーズレストランなら、どこにいっても食べられるかというと、そうではない。

むしろ、みつけるのはかなりむずかしいといえる。

中国でも主に山東地方の料理であるから、まず山東レストランを探さなくてはならない。

山東料理というのは、北京料理のベースになった料理でもあるが、山東省からは、多くのひとたちが中国の内戦を逃れて、海峡を渡って朝鮮半島に移った。

そのため、韓国の中華料理というのは山東料理がほとんどで、アメリカでもコリアタウンなど、韓国人の多くいる地域にいくと多くあるスタイルである。

メニューにハングルが書いてあり、店の人もお客と韓国語で話しているが、韓国人ではなく、中国人なのである。

日本にもあって、僕がちいさいころ家族でよくいった中華料理店では、父親がデザートにとってくれる抜糸がとても楽しみだったのを思い出す。

しばらく食べないと、ときどき糸しくなる食べものである。



(2009年8月1日号掲載)



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