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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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まだある! イタリアにはないイタリア料理

ミスター世界(関根 正和)

みんながイタリア料理だと思っているけど、イタリアにはありません」シリーズの第3弾。スパゲッティー・ミートボール、シーザーズ・サラダを紹介したことがあるが、今回はまとめてご紹介する。

まずはガーリック・トースト。
アメリカ人にとって、イタリアン・レストランにガーリック・トーストがないなんて、コーヒーにクリープがないようなもの。チャイニーズ・レストランにフォーチュン・クッキーがないようなもの。
でも、ないものはないもんね。

イタリアのパンは(朝食は別として)、料理が出てくるまでパリパリとかじって待つ細長いビスケット、グリッシーニなどが主流だ。
ガーリック・トーストは僕のまえにはただの1度も出てきたことがない。
ちなみにフォーチュン・クッキーも中国にはありませんよ。
 
イタリアにないイタリア料理、次はチョッピーノ(Cioppino)。
これはエビなどを入れて豪華にみせたシーフード入りスープで、
アメリカのイタリアン・レストランのメニューにはよく見かけるアイテムだが、
イタリア人が見てもなんのことだかわからない。

似たものはイタリアにないわけではない。
魚やイカ、ハマグリなどを大きな鍋で煮たイタリア版ブイヤベーズ、
「Zuppa di Pesche」または「Caciucco」と呼ばれるものは、
イタリアン・リビエラはリボルノの名物。死ぬほどうまい。
チョッピーノというのはサンフランシスコで生まれたものらしいが、
問題は、この料理はメインコースとしてパスタの上にのせられて出てくることである。
そんなふうにメインコースとして、パスタの上になにかをのせちゃうということは、
イタリアでは決して、決してないんです! もうっ!

次にスパゲッティー・ボンゴレ。
このクラムを使ったパスタは、イタリアにある。
あるどころじゃなくて、僕はアドリア海に面したトリエステで食べたボンゴレに、
本気で涙を流したことがある。
ところがちがうのは、アメリカでは赤いソースと白いソースの2種類があるということだ。
赤、つまりトマトソースのボンゴレというのは、
イタリアには決してない(きざんだトマトをのせることはある)。
白いソースも、アメリカではクリームベースだったりするが、それもない。
あるのは、白ワインとクラムのだし汁、ガーリックとシャロットで味つけしたもの。
とくにボンゴレ・ベラーチという小ぶりで小さい角のはえたクラム、
これがいちばんうまいのだが、そのうまみを最大限にひきだした料理である。

赤白のついでにちょっと脱線するが、
アメリカのイタリアン・レストランではよくキャンティワインのビンかなんかに
赤と白の蝋燭をたてたりして、イタリアの雰囲気を出そうとしていますね。
赤と白の蝋燭というのは、イタリアでは葬式の習慣ですよ!

フェトゥチーニ・アルフレッド、これもアメリカではどこのレストランにもある定番メニュー。
太く平たいフェトゥチーニに、バターとパルメザンチーズを混ぜた濃厚なパスタ料理だが、
これもイタリアにはない、と言いたいところだが、1軒ある。
ローマの「Alfredo」という店に行けば食べられる。
この店の初代オーナーが創案したこの料理は、
なぜかニューヨークに渡って評判になり、全米に普及した。
僕は不勉強にしてこのローマの店にまだ行ったことがないが、それ以外、
イタリア中の店ではこの料理はただの1度もみたことがない。

というわけで、このテーマはけっこうつきないのだが、
アメリカ生まれの料理だからといって、悪いというつもりは決してない。
文化というのは土地や風土、そして時代により変化するもので、
食文化もアメリカはアメリカの風土やひとびとの好みにあわせ、
大いに改良していただいて結構である。
それはそれで、僕も楽しませていただいているわけである。

(2006年5月1日号掲載)


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