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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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「ブリトー」はキモチ悪い

ミスター世界(関根 正和)

Burritoとはスペイン語でburro(ブーロ)、つまりロバ、転じてノロマということばの縮小形で、その小さいやつ、あるいはカワイイやつ、という意味だ。発音は「ブリート」である。

日本では、どういうわけか、これを「ブリトー」と、トーをのばす人が多い。僕はそれを聞くたびにゾクッとする。スペイン語では決してそんないいかたはしない。
どっちだっていいじゃないか、といわれれば、それもそうだけど、それならスマートじゃなくてスマトーといいますか? 東京都のことをトキョトーといいますか?

それはともかく、burritoは、小麦粉のトルティリャで肉片とリフライドビーンズ、オニオンや
細かく切ったチーズやレタス、それにサワークリーム、グァカモレなどを巻き込んだメキシコ料理である。
使う肉は、カルネ・アサーダ(グリルした牛肉)、カルニータ(豚肉)、ポヨ(チキン)などが代表的だが、
サカナやエビ、それにメキシコ本国では内臓やタンなどもよく使う。
ウェットとドライの両タイプがある。
サルサをかけたものがウェット。
これはふつうナイフとフォークで食べる。つまりレストラン料理だ。
ドライのほうは手でつかんで食べるタイプ。どちらかというとファーストフード。

メキシコのトルティリャは、ふつうはコーンの粉から作るのだけど、
ブリートのばあいは小麦粉である。
ブリートの皮をコーンにすれば、ドライタイプならタコ、ウェットならエンチラーダということになる。
じっさい、メキシコではブリートのことをtacos de harina(小麦粉のタコス)と呼ぶ地方もある。

僕はウェットが好きだ。
上にかけるサルサには、サルサ・ベルデ(緑)といって
緑の非完熟トマトとハラペーニョ・ペッパーをすった辛いソース、
サルサ・ロハ(赤)といって、赤いトマトと赤いペッパーのソース、
ランチェロ(農民風)といってトマトとオニオンの辛くないソースなど、いろいろあって楽しい。

上にチーズを溶かしたものものったりすると、いっそう食欲をそそられる。
こういう食べものを食べるときの酒は、ふしぎに、というかあたりまえ、というか、
メキシコのビールかマルガリータがあう。
高級フランスワインや日本酒とブリートを一緒に、と想像してみると、
んーあわないなあ、というのはだれにでもわかるからおもしろい。

それと、われわれ日本人がメキシカン・レストランに行くと、
つい「ブリートとなんとかのコンビネーション」みたいなものを頼みたくなるのだが、
僕としてはブリートならブリートだけ、エンチラーダならエンチラーダだけ、をお勧めする。
なぜなら、日本人のあなた、日本食のレストランに行って、
「テリヤキチキンとスシのコンビネーション」とか、
「カルフォルニアロールとテンプラのコンビネーション」とか、頼みますか? 
(頼んでもいいんですけどね)。

これらは、基本的にその国の食に初心者の人が注文しやすいように、
または豪勢にみえるように店が用意したメニューで、
ふつう日本人は「今日はスシにしよう」とか「テンプラでいこう」となるはずである。

メキシコ料理でも、ちがう料理を組み合わせると、味の焦点がボケて、印象が散漫になる。
今日はブリトーでいこう、じゃなかったブリートでいこう、と決めて、食べてみてください。
こころはたちまちサンディエゴを越えて国境の南に飛ぶはずである。

(2005年6月1日号掲載)


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