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Food

ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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究極の贅沢食

ミスター世界(関根 正和)

今年の正月は、南半球はフレンチ・ポリネシア諸島のいくつかで過ごした。
通称タヒチである。
そして、今回その中のボラボラ島で、食に関する新たな体験があったので、ご報告しよう。
ここはいまも純然たるフランスの植民地だ。
フランス系の住民やフランスからのバカンス客が多いのは当然だが、現地の人々の多くも、フランスの植民地であることに満足し、誇りを持っているようだ。

レストランは、もちろんポリネシア伝統食もチャイニーズもあるが、圧倒的にフレンチが多い。
フランスの街角からそのまま持ってきたようなカフェ、海辺のよしず張りの店、
ホテルの中の高級店もフランス料理である。

ボラボラに着いて、一泊目はホテルで食べて結構満足したが、翌日の夜は、
島で評判のフレンチ・レストランに行ってみることにした。
海岸にポツンと立つよしず張りの、構えはまるでどうということのない店である。
愛想のいいフランス人のマダムが注文を訊きにくる。
今日のスペシャルがあるという。
「それは何ですか?」
「Lapinです」
Lapinとはウサギのこと。ボラボラでもウサギが飼育されてるのかな? 
でも面白そうだから食べてみよう。
到着した皿をみて、あれ? と思った。

野ウサギである。鶏肉に似た食用ウサギとは違い、野生のものは色がずっと黒い。
食べてみる。
まいった!!
これは完全にフランスの野山でとれるジビエのウサギだ。
考えてみればボラボラは今は真夏だけど、フランスは真冬、
まさにジビエ(狩をしてとる野山の鳥獣)の季節。
野草を食べて生きていたのであろうその独特の野生味と、野中をかけまわった筋肉のしまり具合。
そしてこの赤ワインベースのリダクションソースのすばらしさ。
29点!
フランスに持っていったら、ミシュランの星がついてもおかしくない味である(店の構えで落とされるだろうが)。

しかし、何がすごいといって、これをフランスで食べるのならいざしらず、
パリから約一万マイル、地球をほぼ半周したボラボラの海岸で食べる、
というところがものすごい。
南の島だから、レストランには
「ラグーンでとれた新鮮な魚を調理しました」的なキャッチフレーズばかりが目立つが、
それでは面白くもなんともない。

そもそも、南の海の魚というのは、決してうまくない。
真夏の南国の海岸で、その正反対の真冬のフランスから空輸した、旬まっさかりのジビエ。
これを、最高のフランス式調理方法で、フランスワインとともに食する。
これを究極の贅沢といわずして、何といえばいいのであろう。
この店に限らず、タヒチのレストランはみな、パンがフランスそのままの味である。
バターもしかり。ワインはもちろん野菜もソフトドリンクも、アイスクリームもフランスから持ち込んでいる。
オーストラリアやニュージーランドのほうがよっぽど近く、簡単に持って来れるはずなのに、
すべてフランスから持って来る、これをフランス人のこだわり、といわずして、何といえばいいのだろう。
無駄遣い、環境破壊、などいう言葉もチラっと頭をよぎる。

でも、この味のすばらしさの前にはふっ飛んでしまう。
んー、そういえば以前にも一度、これに似た贅沢を体験したことがあったっけ。
それは南アフリカ共和国の動物保護区でサファリをした時のことだ。
一日象やチータやライオンを追っかけたあと、
日がとっぷりと暮れたサバンナのまっただ中へジープで連れていかれると、surprise! 
突然現れたキャンプファイアーのまわりに、ウィスキーやジンなど飲み放題のフルバーと氷、
そして山と積まれていたのはなんと生牡蠣。
ライオンや猿の吼え声に囲まれ、海とは無縁のサバンナで食す牡蠣と、
やはり地球を半分回ったイギリスの酒のうまさ。
これをイギリス版究極の贅沢といわずして、何といえばいいのだろう。

Photo by Masakazu Sekine

(2007年2月1日号掲載)


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