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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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●麺

ミスター世界(関根 正和)

●は火へんに畏、*は口へんに畏
 
「●麺」。さてこれはなんと読むのでしょう。
「くまめん」かな?いや、「隈」なら「くま」だが、「●」はちがう。
「●」は、日本語で「うずみ火」と読む。なんと美しいひびきのことばだろう。
灰の中などに埋めた火のことである。『なかなかに 消えは消えなで うずみ火の』とは新古今和歌集の歌だ。
中国語では「ウェイ」と発音する。
現代の中国語では、「とろ火でとろとろ煮る、または焼く」、という意味に使われる料理用語である。

熱灰の中に入れて焼くことも含まれる。
すなわちヤキイモ。まさにあれはするわけで、中国語では「●白薯」という。
「*」と口ヘンになってもやはり「ウェイ」で、
中国では電話で「もしもし!」というときには「*!」(ウェイ)という。

火ヘンのはなしに戻るが、東京は六本木に、
『香妃園』(シャンピーエン)というチャイニーズレストランがある。
すくなくとも僕が小学生のころからあり、六本木のすぐ近くでうまれ育った僕は、
よく父に連れて行ってもらった。
当時から、『特製とり煮込みソバ』というのが大人気メニューの店で、
いまでも夜となると、場所柄、同伴出勤のホステスなどがみーんなこれを食べている。

チキンのダシで、土鍋でとろとろと長時間煮込んだスープ麺で、
鶏肉片と高菜が入っている。これこそまさに●麺だ。
僕が小学生時代から味がまったくかわっていない。
チキンのコクと香りがたっぷりで、麺は柔らかく、
コシのある麺とはまたちがった独特の魅力がある。
暖かさあふれる食べもので、夕食はもちろんのこと、酒を飲んだあとの夜食にも最高である。

それに匹敵するような麺がここカリフォルニアでも食べたいなー、
と思っていろいろ探しまわったが、なかなか見つからない。
しかし、これが最近ついに見つかったのです。

それが今回紹介の『江南春』で、ここの「嫩鶏麺」は、
とろとろのスープ、鶏らしい味と香りがすばらしく、
六本木の店にくらべると麺のコシがもっとしっかりしていて、これはこれで負けずとも劣らない。
「葱油開洋麺」は、乾燥小エビのダシとネギの香りがチャイニーズらしいマッチングで、
スープはひとくちでうならせるうまさ。
「家郷濃湯麺」は、「●麺」という名こそついていないが、それを超越するようなとろとろさ。土鍋で煮込んだスープ麺で、その点が『香妃園』のとりソバを思い出させてくれる。
われわれ日本人も、鍋ものをしたあとにうどんを入れて食べると、
スープにいろいろな具の味がとろとろに溶け込んでいて、これこそが鍋を食べる目的! 
というほどうまいものだが、まさにあれとおなじような、複雑なコクのあるスープ。

中華スープ麺ファンの読者のみなさん。アロンドラの『大元』がついにクローズして、
あの牛肉麺が食べられなくなったのは残念ですね。
でも、よろこんでください。『江南春』の麺が現れました!
麺などのコクのあるスープ麺は、一般的に言って、上海系の店にいくと出会う確率が高い。広東系の店は淡白なものが多いが、それはそれでまた別の味わいがある。
山東系は辛いスープ、四川系はスープ麺に関しては逆にあっさり系が多い。
ひとくちに中国スープ麺といっても、いろいろな味わいがある。

(2006年1月16日号掲載)


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