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ミスター世界の食文化紀行

"ミスター世界"こと、関根正和さんによる「食」に関するライトハウスの人気コラム。食体験にまつわる楽しい話題や、移民の国アメリカならではの当地のレストラン情報をご紹介します。世界各国の珍しい食材や独特な調理方法、料理の特徴など、読めば新たな発見があるはず!

ミスター世界…世界230以上の国・地域を旅し、本場の食体験と、LA界隈の4000軒以上のレストラン食べ歩きの経験をもとに、食文化評論家として活躍。

ミスター世界
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嘆きのコーン

ミスター世界(関根 正和)

最近のとうもろこしを取り巻く事情はとても嘆かわしい。
僕たちの食べものを、事もあろうに車の燃料に使うなんて。

地球温暖化はなんとかしなくてはならないのはもちろんだが、
世界の人口がこんなに爆発的に増えていて、
世界を旅してみれば食べものがなくて苦しんでいる人々が
あちこちにいっぱいいるというのに、
そしてこれからまだ温暖化が進んでますます作物が取れにくくなり食料不足が
加速するだろうに、食べものをどんどん燃料のほうにまわしてしまうのは、
あまりに拙速に過ぎないだろうか。
アマゾンのジャングルが伐採されてどんどんとうもろこし畑になっているという。
これでガソリンの消費量が減ったとしても、
地球のためになっているといえるのだろうか。
椰子油からつくる石鹸が環境によい、と信じている人々が多いために、
ボルネオのジャングルがどんどん椰子農園にかわっているのと似ている。

アメリカのコーン畑では、見渡す限りの農場に飛行機で種や農薬を撒いたり
巨大なトラクターで刈り取ったり、さて収穫したとなると、
こんどの収穫はどのバイオ燃料工場に売ったらいちばん儲かるか、
それとも今日は牛か豚のエサにしたほうが儲かるか、
たまには人間さまに食わせてやろうか?
そんなコーンなんかだれが食ってやるもんか!
だいたいそんな、愛情のこもっていないコーンなんて、食べてみてうまいはずがない。

うまいコーンって、どんな味だったっけ?
北海道の夏の、醤油をつけて焼いたり茹でてバターを塗ったあのとうもろこし、
コーンというのはああいう味がするものなのです。

じつはいま、西アフリカ沿岸のカボベルデ(Cabo Verde)島でこれを書いていて、
ここのコーンのうまいのに肝をつぶしているところなのだ。
もともとポルトガル領のこの島は、料理はポルトガル料理が主体であり、
コーンが現地人の食生活に密着しているわけではなかった。
でも政府が輸出産業として育てた結果、この火山性の
ものすごい断崖絶壁だらけの島中が、どこもかしこもコーン畑、
それも斜面にびっしり段々畑、現地のおじさんやおばさん、そして子供たちが
崖にへばりつくようにして一所懸命手を入れ育てている。
ひとつの段に一列しか苗を植えられなかったりすることもあるところだから、
トラクターなんてとんでもない。
愛情たっぷりのコーンは、ここのレストランでもサラダなどに
たくさん入ってでてくるが、甘くて、コーン独特の香りがたっぷり、
プシプシした食感もすばらしく、食べたあといつまでも歯に快感がのこる。
コーンって、こんなにうまいものだったんだ。

地球環境のためには、もっと省エネできる余地はいろいろあるでしょう。
ほかのものを燃料にする技術開発も早く進めてほしい。
コーンは世界の人々の胃袋に入れてほしい。
いよいよ環境問題が加速してきた2008年の正月、
カボベルデでコーンを食べながら、こんなことを思っています。

(2008年2月1日号掲載)


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