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ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

160)当たり前で、とんがる

マーケティング講座

こんにちは!阪本啓一です。当たり前を、淡々と。


視察研修が殺到するスーパー

ドラッカー・スクール(www.cgu.edu/pages/130.asp)の正式名称には、「Masatoshi Ito」の名前が入っています。イトーヨーカ堂創業者、セブン&アイ・ホールディングス名誉会長の伊藤雅俊氏のことです。その伊藤氏がわざわざ視察に来る(急用で中止になった由ですが)スーパーマーケットがあります。餃子の王将・大東隆行社長を始め、全国600超の企業から視察研修依頼が殺到しています。

仙台市中心から車で30分走った秋保温泉にある「主婦の店・さいち」。行ってみて驚きました。コンビニがちょっと大きくなった程度なのです。売場面積260屐△よそ80坪、これで年商6億円。日曜お昼、店の前の道路は混雑していて、駐車場(15台分、第2駐車場入れて35台分)が満杯でした。

この店の特長は、売上の半分がおはぎとお惣菜で占められている点です。50%は通常ならあり得ない比率だそうで、この点も、みんなが「秘密」を勉強したくてやってくる理由なのでしょう。

秋保は周囲を山に囲まれた田舎町、人口4700人程度、日本の他の田舎町と同様、年々人が減少し続けています。そんな逆風の経営環境の中、おはぎは1日5千個、土日休日1万個以上、お彼岸の中日には1日2万個売れます。おはぎ1個105円。パックは2個詰めのほか、4個、6個、8個入りもありました。お惣菜は1日100万円売り上げます。商品単価は決して高くありません。私はおはぎ2個入りパックと、帰りの新幹線で食べる夕食用に、シャケ弁当400円、おにぎり弁当350円ほかを買いました。おはぎは1個が大きいので、2人で分け合いました。甘過ぎず、何個でも食べられるおいしさです。

お惣菜は毎日売り切るので、60%と非常に高い原価率にもかかわらず、ロスがなく、40%丸ごと利益が出ます。


当たり前を、淡々と

確かに、売れ残って廃棄することが前提ならば、どうしても原価にロス分を見込んで価格設定してしまいます。しかし、そのロス分は、誰も喜ばないムダ金。店としても、お客さんも。そのロスをお客さんに負担してもらいましょう、というのは、経営のまずさを顧客に負担してもらう発想で、元来通らない理屈です。さいちの佐藤啓二社長は、言います。

「お客様に喜んで買っていただけるおいしいお惣菜を作り、全部売り切ってしまうことが、結局はお惣菜の売上と利益を伸ばす最短で最善の道なのではないか」(*)。

材料仕入れも従業員に任せているので、彼らは米一粒でも、大根の葉っぱ一枚でも無駄にしないように心がけ、努力しているそうです。任された担当者としてももちろん、人として、当然ですよね。さいちの従業員教育は「惣菜を作る姿勢を作る」としています。

専務の社長夫人がお惣菜の責任者で、調理場のスタッフにお惣菜の作り方を教えます。マニュアルは作りません。1つのお惣菜について、1人に徹底的に教えます。教わったスタッフが1人で作ったお惣菜を専務がチェックし、お墨付きが付くと店頭に出されます。どのお惣菜も、見た目からして、家庭の味わいがあります。「おかあちゃんが家で作ってくれるおかず」の雰囲気、そして味なのです。

家庭のおかずが添加物を使わないように、さいちのお惣菜には使われていません。家でわざわざ作らなくても、ここで買えば安くて済んじゃう感じです。

売り切って無駄の出ないようにする、おいしいものを作る、旬の素材を生かした献立にする、健康に良くない添加物は使わない…、いずれも当たり前のことです。しかし、この、当たり前のことがなかなかできないのも現実ですね。


とんがる

さいちは、周囲に大型スーパーやコンビニが開店するたび、売上も利益も伸びて来たそうです。それは、さいちにしかない「とんがった商品」としておはぎとお惣菜があるからです。いまやおはぎは「秋保名物」としてテレビなどでも紹介されるほど。普通「とんがる」というと、他にない斬新な商品をイメージしがちですが、「おいしさ」も、十分とんがりになるのです。当たり前のことを淡々とすることで、とんがりが生まれるのです。

*『売れ続ける理由』 佐藤啓二著、ダイヤモンド社 ページ74

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(2011年3月16日掲載)