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アメリカでのビジネス・仕事

現地情報誌「ライトハウス」が人気コラム「アメリカ人と共に働く技術」をはじめ、起業・独立、マーケティングに関する情報など、アメリカでのビジネスに役立つ情報をご紹介。

ライトハウス編集部
ライトハウス編集部

117)在り方(bei ng)

マーケティング講座

こんにちは! 阪本啓一です。
何が売りたいかではなく…


激戦区にも白紙あり

横浜中華街に新しく店を出すにあたり、Aさん夫妻は、まず、中華街を観察することから始めました。Aさんは香港生まれ、奥さんは上海生まれの中国人です。奥さんが日本語を少し話せますが、コックのAさんはからきしダメです。片言の日本語と乏しい資金をやりくりしながら、2人は来る日も来る日も、中華街を食べ歩きました。そこで2人の出した結論は、「まだだれも手をつけていない白紙がある!」。白紙とは、未開拓市場です。

 中華街には格式高い店からちょっとカジュアルな店まで、230軒以上あります。いわゆる激戦区、ホットゾーン。しかし、それでも、「白紙(ホワイトゾーン)」を発見しました。それは、「日本人好みの、いわゆる町中華の味とメニュー」です。気づいてみればコロンブスの卵ですが、日本人の好きな「焼きギョーザ」「ラーメン」「チンジャオロース」など。これら日本人が気軽に楽しみたい品々、残念ながら本格中華のメニューにはありません。


何を売りたいかではなく、何なら買ってくれるか

A さん夫妻は、中華街からちょっと元町寄りに外れた場所にある物件を借り、そこを店舗にしました。出店準備で呪文のように彼らが唱えていたのは「何なら日本人は食べてくれるか」です。この視点、重要なので、皆さんも自分の胸に手を当てて、じっくり考えてみてください。商売でよくあるのは、「私はこれが売りたい!」という、「売り手の強い思い」です。しかし、大切なことは「何を売りたいかではなく、何ならお客さんはお金を出して買ってくれるか」です。とにかく日本人が好みそうなメニューだけを並べました。Aさんはギョーザを焼いたことがなかったので、たっぷり練習しました。野菜の旨さで勝負したいので、野菜の仕入れには細心の注意をしました。おかげで空芯菜(クウシンサイ)や豆苗(トウミョウ)の炒め物は大人気メニューです。

また、こだわったのは価格。ランチタイムに気軽に入れる中華街の店は少ないため、私のように近所で働いている人や、工事現場の人は困っていました。この「価格ゾーン」も白紙があったのです。徹底的に低価格でいくことにしました。だから、どんなメニューも600円程度、ラーメンに至っては定価580円ですが、「今だけ!200円引き380円!」という張り紙がしてあります(いつまで『今だけ!』なのか不明ですが(笑))。

おかげで2人の店は、大繁盛しています。


在り方(being)

Aさんの店で学べることは、
「自店の在り方=being」を徹底的に考え抜いた姿勢です。商品(メニュー)から考えるのではなく、「市場のどこに、まだだれも手をつけていない白紙があるのか、その白紙を自分は何によって埋められるのか」という姿勢。これは即ち、「在り方」でして、「売り」です。「being」を定めたのちに、商品を考える。ややもすると思考は逆方向になりがち。

テレビで、バングラデシュ、ダッカのアパレル工場経営者のドキュメントを見ました。無担保で少額融資するマイクロクレジットを利用して工場を始め、アメリカからの受注で大変繁盛しています。ところが、この繁盛は、2008年秋のアメリカの金融破綻より前の注文によるものであり、「永遠ではない」。ところが、くだんの経営者は師匠と仰ぐ先輩経営者のアドバイスもきかず、「もっと儲けよう」と、工場を拡大する意思決定をします。テレビを見ながら私は、非常に危ないな、と思いました。もちろん、需要など、完璧には読むことはできません。しかし、この事例で見逃せないのは、工場経営者が「being」で考えず、生産規模だけを指標にソロバンをはじいていることです。「なぜ自分に注文が来るのか」という「在り方」の冷静な分析をすることなく、ただ、「注文とそれをこなす製造設備の能力」しか見えていない。


何をするか(doing)から、在り方(being)へ

私は文具を売っています。うちはエステサロンです。歯科医です。カジュアルウェアを売っています。…いずれも「何をするか(doing)」で自分の商売を定義しています。そうではなく、「在り方」を考えてみてください。きっと、新しい展望が開けることでしょう。




(2009年5月1日号掲載)