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ゴルフ徒然草

ヒデ・スギヤマが、ゴルフに関する古今東西の話題を徒然なるままに書きまとめた、時にシリアスに、時にお笑い満載の、無責任かつ無秩序なゴルフエッセイ。

ヒデ・スギヤマ/平日はハリウッド映画業界を駆け回るビジネスマン、
週末はゴルフと執筆活動に励むゴルフライター。

ヒデ・スギヤマ

vol.8 プロゴルファーの業務と義務 (前編)

2006年7月4日付某日系新聞の朝刊スポーツ面コラムより
「…昔ある日本のトーナメントのプロアマで出場予定の選手が急に欠場になり、
Y選手に出場を要請したらあっさりと断られ、その態度に立腹したことがある。
Y選手はその後、米ツアーのメンバーとなったが、数年後に日本ツアーに戻り、
ある選手会の集まりで他の選手に『みんなもっとスポンサーやファンに感謝の気持ちを出さないと。
権利ばかり主張するより、自分たちの義務を果たさないといけないよ』という発言をして、
その変貌ぶりに驚かされた。
その後、彼と話をする機会がありそのことを尋ねると、アメリカのPGAに入ったことで、
主張するより我慢することや、ファンに感謝することの大事さを覚えさせられたと言っていた。
今ではY選手も、トーナメントの前夜祭やイベントに嫌な顔ひとつせずに
フル出場してくれている…(日本ゴルフツアー機構ディレクターY氏)」


この記事を読んで私も昔の思い出がよみがえってきました。
それは今から十年少し前のことです。
日本のプロゴルフトーナメントでは最も大きい規模で、
また海外からトップクラスの選手がたくさん訪れることで有名な、
あるトーナメントを取材する目的で私は晩秋の宮崎にいました。
取材相手は3名。まず一人目は日本人で、
日本では人気・実力ともトップ5にギリギリ入るかなという選手です。
2人目は米国人。それも“新帝王”のニックネーム通り、米国内はもちろん、
メジャーでも何勝もしている、スタンフォード大卒の知的ゴルファー、トム・ワトソン氏。
緊張しますねぇ。そして3人目は、本家“帝王”と言えば説明は不要でしょう。
ジャック・二クラウス氏。さらに緊張しますねぇぇぇ。
緊張しまくりの心臓の鼓動を抑えるために、まず同じ日本人同士で和ませてもらおうと、
私は日本人プロから取材を始めたのでした。でも私の思惑は見事に外れるのです。


「あの… それでこの試合にかける意気込みなンですが…」
トレーニングウエアの上下で、約束の時間に少し遅れてやってきたそのプロは、
明日のトーナメント初日ティーオフに向けて既に精神を集中し始めているのか(ちょっと早すぎるのでは?)、
私の質問にも上の空の様子。
もっとも彼は決して失礼な発言や非常識な態度をしたわけではなく、どちらかと言うと
『俺は勝負師なのだ。こんなチャラチャラした取材に付き合うのは事務所の命令だからであって、本当は月夜の下で素振りでもしたい、本格派アスリートタイプ・ゴルファーなのだ。エッヘン』
という無言の主張がプンプンと漂う男でした。
私も腹の中で
『こっちも仕事だからお前みたいな2流プロにも笑顔を振りまいてるんだよ、この青二才!』
と悪態をつきながらも、満面の笑みで何とか取材を終えました。

そして次は… おー“新帝王”、トム・ワトソンさま。
クルーズよりもハンクスよりも知的な印象が漂うワトソンさま(トムくくり)。
日本の2流プロとの取材で既にへこんだ私は、
どうやってこれからの超大物2人を(しかも英語で)こなすか、
目の前が真っ暗になってきました。できれば今すぐ高熱でも出てくれないかな、
そしたら誰か他の人がやるだろうし…という卑怯な発想さえ脳裏を横切っていたのです。
しかし人生は後ろを向いてはいけません。
苦難にあえて立ち向かう時こそ活路が開けることを、その数分後に私は学ぶのでした。
待ち合わせしたホテルのロビーに、トム・ワトソンは1人で静かに現れました。

(以下後編に続く)

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